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2019/01/27

2019年2月号「前号20首抄」

   20首抄(2019年1月号より抄出)ー    
    

  なにごとか思いて留まる蟷螂の秋のさ中のわれにも似たり         笹田四茂枝  

 「あなたも要る」の「も」は絶対の者でなしわれは遊離基フリーラジカル 柴地 暁子

  土手ゆけば炎と見ゆるヒガンバナ猛暑の日々も下火と知りぬ        高見 俊和

  集う日がわが生きがいとなれるいま孫らのハグにぬくもりを得る      龍野日那子

  夏に見る青き記憶は妄想の朱(あか)と重なり少女が映える         田中  祐二   

  むくげの花朝(あした)に咲きて夕べ散るひと日の命いま音をたつ      永井 妙子

       深()山にし夢殿見れば草むせり訪ね来る人多からざらん      中村カヨ子

  これの世に生きてしがらみまとえども志ひとつ持ちてゆきなん       光井 良子

  人の世はかりそめならず夫逝きて無縁の町に日々見るは海         宮迫千鶴子

  赤き芽を見せて張り出す紅葉の木雨つぶのせて静かにゆるる        矢追 房子 

  さりげなく言葉交わししかの人に心傾くと占いにあり           上田 勝博

  抱き上げし幼のにおい残りいるわれとわが身にひたりてひと日         榎並 幸子

  透明のジンのグラスに一滴(ひとしずく)レモンは神の使いなるべし     大瀬  宏

  穂芒の一筋までも輝かせ今日の光は澄みわたりたり            岡田 寿子

  引き揚げの父母の心に思い馳()せ友を誘いて舞鶴の地へ         岡田 節子

  たぎる湯に菠薐草のまみどりを放てばひとつの憂い流るる         折口 幸子 

 「朝めしまだか」と呼ぶ人はなくうつろなり露おくバラを一人摘みたり  木村久仁子

  百歳になりたる人よご詠歌に打ちゆく鉦(かね)のリズム正しく       小巻由佳子

  歌よみて心なごめるこの日ごろ詠めず苦しむ時もありうる         近藤 松子




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2018/12/27

2019年1月号「前号20首抄」

  20首抄(2018年12月号より抄出)ー

     さるすべり細枝にわたあめあつめ九月の窓にほのかに灯 (とも) る       勝地 健一
     夏の庭でおしゃべりせし人乗せてゆく黒い車に手を合わす秋           金尾 佳子
     日本の最果ての原野サロベツに渡り鳥らのにぎわう春来()         川口 浩子
     今日明けて尾花さやかにそよぎいる銀の色して青空のもと            喜多 敏子
     地球照 こよいは澄めり秋冷の風さえ光る散歩道ゆく              近藤 史郎
     この部屋に明かりをつけて短歌書くこよいの終わり恋の終わりを         佐々木孫一
     青虫に衣とられて秋茄子の哀れなるかな裸となる朝               鈴木 敬子
     太陽はあまねく世界を照らしてる片隅なんてそれはどこなの           西本 光仁
     ダヴィデ像見し日の夜の浴室の曇れる鏡やおら拭()きたり           日野 幸吉
     秋日浴みキバナコスモス花盛り黒あげは蝶日がな来遊ぶ             廣田 玲子
     こもれ日の家に六十余年住みふっと静かに夏を見送る              北條多美枝
     六時半 東の雲はShell Blue(シェル・ブルー)ミルクの空にいまし溶けゆく  山本 真珠
     月々の「真樹」の世界に圧倒され深呼吸して表紙をめくる              吉田ヒロミ
     水害の季の花火師の哀(かな)しみよ四方(よも)の夜空のステージあれかし       吉山 法子
     おりの中タイガーに人おそわれぬ野生のスイッチ誰が押したか            的場いく子
     籠もらじと散策しては歌詠みて夜はその歌の推敲に更く               水田ヨシコ
     あめ色にかっきりと枝に張りつきて造形美みせしかの蟬いずこ            森重 菊江
     雨上がり白き一機のいざなうは東にあらん希望という町               新井 邦子
     坂の上()の雲を追いかけ走り次ぐ雲の片片(へんぺん)指に触れたく        有本 保文
     畑作に携わるだけの今日なれど髪とき紅さしやる気湧き出()ず            岡畑 文香

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2018/11/28

2018年12月号「前号20首抄」

  20首抄(2018年11月号より抄出)ー
  
    薄茶席に男手前の頼もしく海はのどけく船通いおり            岩本 淑子
    アイフォンで音楽きくとイヤホンを着ければ演奏われ一人占め       宇吹 哲夫
    向日葵は朝日に向かい夕日にもきっちり向かうを一日の業とす       岡畑 文香
    外壁の色はいかにと思うとき富良野の丘のラベンダーの風         大垰 敦子
    秋の月さやかに照れりわが過ぎし日々をばかえりみよとごとくに      大津タカヱ
    愛を得て家内とともに人生の道をここまで来し幸せよ           大森  勝
    水晶のごとき滴は朝光を浴びて悲しみの心潤す              木村 浩子
    利き腕が難癖つけて痛めども投稿書くのは許してくれた          廣本 貢一
    台風のあとのからりと晴れた日に洗濯たたむかぐわしきとき        隅出志乃惠
    取り出してまた収めおく夏帽子あと一夏と決めて箱閉ず          高本 澄江
    豪雨災害に命残りて良かりしと目に力ありひとりの女           龍野日那子
    白鷺はさむざむ歩み畔(あぜ)よりをふわりと風に乗りて行きたり      豊田 敬子
    ごうごうとせき越える水に負けずしてあめんぼの群れ泳ぎいるなり     延近 道江
    単純にバナナの皮と思いしが「シュガースポット」は肌の劣え       樋口  礎
    ぽろぽろと庭の葡萄が落ちはじめ色づくよりを雀が食す          平本 律枝
    新婚旅行の費用を当てて水道の工事なしたる遠き日思う          廣畑佐か江
    朝そりし髭 (ひげ)は夕べの指にたつかくてあずかる命知らさる      宮崎 孝司
    人間はいかに生きしか奇岩あり古代の風景想像を超ゆ           森  光枝
    星々を知りたる日々を思いつつ赤き星見る平成の夏            吉田 征子
    真っ青な空を水(みな)底によびこんで喋り始める水面は揺るる       吉山 法子

2018/11/01

2018年11月号「前号20首抄」

 20首抄(2018年10月号より抄出)ー
  
   災害の諸相ひどきに言葉なく断水ほどはと気を引きしめつ         脇家登美子
   貝を掘り子らの泳ぎしかの海にがれきとなりて町流れ落つ         有本 幸子
 学会号にわれらも追いし抄録みて閉じし心のキー揺らぎおり        有本 保文
 二日経て山水まだもさんさんとあふれ下りつ裾なる家に          石井恵美子
 夏朝明()(もや)ぞ立ちたる瀬戸内の居並ぶ島々断水中なり      上脇 立哉
 土曜もなく日曜もなく給水所へもらいにゆくは命の水ぞ          大越由美子
 泥につかる家内の惨のむごきこと天のなすことはけ口もなし        川上  薫
 ステントの交換上手をよろこべば医師は何よりと笑顏美し         後藤 祝江
 奪われし心はここに戻らずと残る空(うつ)ろののたうつばかり       下井  護
 諦めと忍従の色みせつつも復旧作業に君は殉ぜり             滝沢 韶一
 鉄道も幹線道路も土石流に埋まり呉市は孤島となりぬ           竹添田美子
 地図になき茨(いばら)の道を歩みたりこの災害に新たなる道        田中 淳子
 轟音たて水煙上ぐる堰(せき)となりまぶた閉ずれば大滝うかぶ       中村  武
 雨の神魔の爪持ちて荒れまくり山々の肌を引っかき去りぬ         濱本たつえ
 消磨され不滅の光放つとう墨の命に心す墨匠(しょう)           古澤 和子
 土色に濁れる今朝の海一面木切れ漂う雨の夜あけて            堀部みどり
 島の端の友より届く井戸水をこぼさぬように夕餉()のしたく       松井嘉壽子
 夕立に生き返りたるナスキュウリ災害地には傷深まらん          松尾 美鈴
 山の斜面崩し豪雨は流れつつ家屋家財の散乱むごし            松永 玲子
 わが庭に柩(ひつぎ)のあるや漂ふはクルスのごときドクダミの花      森 ひなこ

2018/10/25

2018年10月号「前号20首抄」

 20首抄(2018年9月号より抄出)ー
 木もれ日のゆるる湖畔に思い出(い)ずいちずの思いに涙ながししを      松尾 美鈴

  ひと月を過ぎて早苗田分蘖(けつ)すと根張りよろしき炎天の下               松永 玲子

 はるばると海山こえてくる黄砂今年も人をなやまし去りぬ                 山野井 香

 皇子(みこ)眠る陵墓(りょうぼ)をわたる春風は語らうごとく若葉をゆらす   吉田 征子

ユニホームをスーツに替えて姿みするそれぞれの額(ぬか)明日の風待つ     大垰 敦子

つながらぬ言の葉だけが横たわり君との距離を測るためらい              勝地 健一

報われて終わる日ばかりにはあらねそれでも今をただ生きてゆく            金尾 桂子

先の人の落とし物とり大声に追いかくる身を熱波はつつむ               柴地 暁子

木を刳()りて清水(きよみず)通す水車綿虫の舞う秋の妻籠よ                  下井  護
着る物も食べ物もすべてつましくし懸命に生きし先祖をしのぶ             隅出志乃惠

友を待つ間に桜よく見れば「上を向けよ」と小枝教える                髙見 俊和

季(とき)を得て風を光を包み込みレタスは緑の玉を紡げり               高本 澄江

瞑想にかなう木陰か鏡山城跡に座し行雲を追う                    田中 淳子

山城の跡ゆ見下ろすそのかみの穀倉の地はコンクリの街                中村  武  

知らぬ間に犯しし罪のあるを知る今知るとてもなすすべ知らず             鍋谷 朝子

日常は平和な日々がつづられる退屈じゃない豊穣(じょう)なんだ          西本 光仁

柿の木は風吹く中にただ立ちて話すがごとく体をゆらす                延近  道江

警報ののち洪水に変わりゆく画面、字幕に激しさを知る                廣畑佐か江

その背(せな)は敵の目欺く木漏れ日柄バンビ瓜坊自覚のありや         福光 譲二

散歩道のかなたに見ゆる里の峰父母思えども語るとき過ぐ         堀部みどり