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2022/05/28

2022(令和4年)6月号

04052801表紙6月号_convert_20220531133506
題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌 
縁先に芽立揃へる柿若葉夕闇こもる中に明るし
あけそむる林の道に風ありて若葉の露がしげくこぼるる
あかときの林をゆけば楢林若葉しるくも匂ひたちつつ
カンナの葉園にひろがり萌え出でし朝顔の鉢を蔽ひかくせる
よべの風やみたる朝の庭くまにみだれて咲ける蔓薔薇の花
そよ風の渡らふなべにほのあかき桜のしべのうちそよぎゐる

                   『薫日』(昭和十二年刊)──季節篇──若葉

     20首抄(2022年5月号より抄出)
                                 
ラジオより道産子弁「あずましい」亡母の声のごとく聞こゆる    永井妙子
この冬も長方形のお守りが守ってくれるマスクとカイロ        西本光仁
朝日うけ共に歩める娘の影わが影越して長くうねりぬ        廣田玲子
見つめあい息をそろえてジャンプせり愛を語れる銀盤のペアは  松尾美鈴
一年の日記書き終え操りみれば二日の空白ありて思案す     水田ヨシコ
横屋跡の銀杏は冬日に耀きぬぎんなん拾う人ら待つらん      宮﨑孝司
戦争をモノクロでしか知らぬ我リアルな色で見せつけられる     宮本京子
三日月にわれの齢(よわい)をすいと乗せこぎゆかん先は満月とせん  森重菊江
雛(ひな)の節句は明日と思いつつ見上ぐれば上の畑に紅梅咲けり   守光則子
物知りの利器ありがたしスマホにて検索忘却ごっこする        吉田ヒロミ
傍(そば)あけて待つとう夫の終(つい)の言葉思いつつわが一日が暮れる 石井恵美子
現れし時は覚えず生かされて逝くとき知らずうばわれてゆく      上田勝博
独裁者の心の闇はいつからか長期政権狂気を生みしか        畦 美紀恵
籠もりいし日の歌すべて暗きなり一歩踏み出し空を仰ぎぬ      岡田節子
巣を守る六角形の形状は正確無比の蜂のコンパス           勝地健一
床の間の木五倍子(きぶし)の一枝写経部屋の我ら十人の筆を見守る  金子貴佐子
種まかず何も育てずわが人生収穫期にはせめて笑顔で       菅 篁子
雪載せて椿は私を見ていたり寒い辛いと言い訳するを        高本澄江
雨もよいの日暮れの西へ行く鳥を見つつ閑雲野鶴(かんうんやかく)を思う 龍野日那子
くちなしは雨に激しく打ちくだけ朝あさ見るに今朝も嗟嘆(さたん)す 津田育恵

2022/05/10

2022(令和4年)5月号

04042301令和4年5月号表紙_convert_20220627233334
題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏

04042302裏表紙4.5月_convert_20220627233516
04042303目次4.5月_convert_20220627233552

山本康夫の歌

あくがるる心を占めて刻々と満ちくる春の季感あたらし
時くれば治る病いにほけほけと寝て思う人生のよき面のみを
入院の日過ぎに思う勤務というものに制約されざる自由
わが病い篤くみとりてくれし母今は古里に老い深くいん
激痛のややおさまれば家の子の遊べるさまがまなかいに顕つ
戦場に傷つき苦しみし兵士らを思いぬ手術の痛みの際に

                 『山本康夫全歌集』(昭和六十三年刊)──補遺

20首抄(2022年4月号より抄出)
                                 
青空の私の帽子にめがけ降る雪はさながら意志もつごとく  津田育恵
真心にその折々に支えられ難のりこえて一歩踏み出す         中谷美保子
オミクロンという奇妙な名前にてじわじわ責め来(く)正月あけを     中元芙美子
ホッチキス針は小さな宝物からだを折って紙抱きしめる  西本光仁
昨夕の月食は見ず朝方に西の窓より光る月みる  延近道江
梅一輪あらばよろしと思いつつ誰にも会わぬ散歩道ゆく  松永玲子
冬日ざし浴びつつ少し遠くまで街を歩きてコロナ禍忘る  柳原孝子
迷惑をおかけしますと工事版に晴雨の日々を君はおじぎす  山本全子
束の間を園児の遊ぶ庭となるエナガ飛び交う冬の朝庭   新井邦子
暁の燃える赤玉わたりゆき沈み去るきわふたたび燃える  上田勝博
大楠は命のゆりかご十二畳の根元の穴に天神祀(まつ)らる  榎並幸子
餌を求め足らいて眠る野良猫の姿思いて我も眠りぬ   大垰敦子
わずかなる手足もて胴をくねらせてハレの舞台を泳ぐおみなご  岡田寿子
9・11に子を失いて二十年詮なきこととマイクに話す  金子貴佐子
寒々とマスク軍団うごめきて接種の順番競う街角  木村浩子
目の術後一粒一粒艶めけり夫のつくりしこの朝ごはん  栗原美智子
春の朝かっかと歩む石畳われは蹄鉄(ていてつ)もつにあらずや  黒飛了子
宇宙より還(かえ)り来る人歳晩に下界の人に何を語るや  鈴木敬子
女の孫が事あり顏してわれに対(む)き言わねど思う婚のことぞと  龍野日那子