2022(令和4年)6月号

題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏


山本康夫の歌
縁先に芽立揃へる柿若葉夕闇こもる中に明るし
あけそむる林の道に風ありて若葉の露がしげくこぼるる
あかときの林をゆけば楢林若葉しるくも匂ひたちつつ
カンナの葉園にひろがり萌え出でし朝顔の鉢を蔽ひかくせる
よべの風やみたる朝の庭くまにみだれて咲ける蔓薔薇の花
そよ風の渡らふなべにほのあかき桜のしべのうちそよぎゐる
『薫日』(昭和十二年刊)──季節篇──若葉
20首抄(2022年5月号より抄出)
ラジオより道産子弁「あずましい」亡母の声のごとく聞こゆる 永井妙子
この冬も長方形のお守りが守ってくれるマスクとカイロ 西本光仁
朝日うけ共に歩める娘の影わが影越して長くうねりぬ 廣田玲子
見つめあい息をそろえてジャンプせり愛を語れる銀盤のペアは 松尾美鈴
一年の日記書き終え操りみれば二日の空白ありて思案す 水田ヨシコ
横屋跡の銀杏は冬日に耀きぬぎんなん拾う人ら待つらん 宮﨑孝司
戦争をモノクロでしか知らぬ我リアルな色で見せつけられる 宮本京子
三日月にわれの齢(よわい)をすいと乗せこぎゆかん先は満月とせん 森重菊江
雛(ひな)の節句は明日と思いつつ見上ぐれば上の畑に紅梅咲けり 守光則子
物知りの利器ありがたしスマホにて検索忘却ごっこする 吉田ヒロミ
傍(そば)あけて待つとう夫の終(つい)の言葉思いつつわが一日が暮れる 石井恵美子
現れし時は覚えず生かされて逝くとき知らずうばわれてゆく 上田勝博
独裁者の心の闇はいつからか長期政権狂気を生みしか 畦 美紀恵
籠もりいし日の歌すべて暗きなり一歩踏み出し空を仰ぎぬ 岡田節子
巣を守る六角形の形状は正確無比の蜂のコンパス 勝地健一
床の間の木五倍子(きぶし)の一枝写経部屋の我ら十人の筆を見守る 金子貴佐子
種まかず何も育てずわが人生収穫期にはせめて笑顔で 菅 篁子
雪載せて椿は私を見ていたり寒い辛いと言い訳するを 高本澄江
雨もよいの日暮れの西へ行く鳥を見つつ閑雲野鶴(かんうんやかく)を思う 龍野日那子
くちなしは雨に激しく打ちくだけ朝あさ見るに今朝も嗟嘆(さたん)す 津田育恵