2019年2月号「前号20首抄」
なにごとか思いて留まる蟷螂の秋のさ中のわれにも似たり 笹田四茂枝
「あなたも要る」の「も」は絶対の者でなしわれは遊離基フリーラジカル 柴地 暁子
土手ゆけば炎と見ゆるヒガンバナ猛暑の日々も下火と知りぬ 高見 俊和
集う日がわが生きがいとなれるいま孫らのハグにぬくもりを得る 龍野日那子
夏に見る青き記憶は妄想の朱(あか)と重なり少女が映える 田中 祐二
むくげの花朝(あした)に咲きて夕べ散るひと日の命いま音をたつ 永井 妙子
深(み)山にし夢殿見れば草むせり訪ね来る人多からざらん 中村カヨ子
これの世に生きてしがらみまとえども志ひとつ持ちてゆきなん 光井 良子
人の世はかりそめならず夫逝きて無縁の町に日々見るは海 宮迫千鶴子
赤き芽を見せて張り出す紅葉の木雨つぶのせて静かにゆるる 矢追 房子
さりげなく言葉交わししかの人に心傾くと占いにあり 上田 勝博
抱き上げし幼のにおい残りいるわれとわが身にひたりてひと日 榎並 幸子
透明のジンのグラスに一滴(ひとしずく)レモンは神の使いなるべし 大瀬 宏
穂芒の一筋までも輝かせ今日の光は澄みわたりたり 岡田 寿子
引き揚げの父母の心に思い馳(は)せ友を誘いて舞鶴の地へ 岡田 節子
たぎる湯に菠薐草のまみどりを放てばひとつの憂い流るる 折口 幸子
「朝めしまだか」と呼ぶ人はなくうつろなり露おくバラを一人摘みたり 木村久仁子
百歳になりたる人よご詠歌に打ちゆく鉦(かね)のリズム正しく 小巻由佳子
歌よみて心なごめるこの日ごろ詠めず苦しむ時もありうる 近藤 松子
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