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2023/09/03

2023(令和5年)9月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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  20首抄(2023年8月号より抄出)

夜上がりの雨滴のこして道までを伸びるツタカズラよけつつ歩く  松井嘉壽子
カーテンゆ透けて見えたる満月のおぼろおぼろに早苗田てらす   松尾 美鈴
葉桜に耳欹(そばだ)ててさえずりのありかを探しゆく並木道   水田ヨシコ
黒い雨の健康被害知る由なくブラウスの洗濯に心くだきし   柳原 孝子
この沖を人磨行きしと思いつつ息深く吸う藤江浜の辺   吉田ヒロミ
「幸せ」と見上げる空が美しくただただ、それが幸せ曜日   杏野なおみ
晴天にキラキラ光る新緑は風にまかせてそよそよと揺る   畦 美紀恵
新しく土を作ると鍬(くわ)入れつつ良き汗流し春を待つなり   及川  敬
貧困はいずれにありや「物もたぬ」「心を持たぬ」いずれにありや   大瀨  宏
「断捨離」をわれは宣言せるものを花談義ののち一鉢受けつ   岡田 節子
今日だけは誰にも告げじ百合の木の初花の黄の揺るるをながむ   金尾 桂子
いい人生だったと思う今のまま後期高齢者として歩まん   栗原美智子
肉体に花咲きし日をたたえなん蜂の唸(うな)りのまつわるときに   黒飛 了子
寒のもどり重ね着するもトネリコにひよどり群れ来やはり春は春   佐藤 静子
しづけさの生まるる朝よ雨過ぎし楢の林に滴光れり   澤田久美子
孤独にも様々な色あるならん赤きジャッケット今日は着て出(い)ず  田中 淳子
訃の届き連絡せざりしことを悔ゆ影をしのべば青嵐吹く   中村カヨ子
ヘリが飛ぶ警備のさなか主婦として毛布を洗い日の恵み受く   中元芙美子
催花雨をうけて生きかえる鉢の花独り眺めて飽かぬ思いす   延近 道江
パソコンの画面を離れわれの目は壁を這(は)いいる蜘蛛に和らぐ  弘野 礼子

2023/07/26

2023(令和5年)8月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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   20首抄(2023年7月号より抄出)

はるばると気流にのりて飛び来たる黄砂は庭に終息すらし   廣田 怜子
〈ヴァンヴェール〉の窓に島根の風がみゆ母の山口を越えてきて島根  山本 真珠
部屋の中光差し込み一筋の道を作りて希望が生まる  杏野なおみ
再びの夫の病にいかにして平常心(びょうじょうしん)をわれ保てるや  榎並 幸子
スタジアムへと続く道にも県外の警察官立ちG7近し  大越由美子
怠惰とはキッチンに立つか食べないか私事の夕焼けている  大塚 朋子
もしあらば「聞き耳頭巾(ずきん)」は捉えなん殺さないでの鶏の悲鳴を 岡田 寿子
いい事といい時だけをつなぎゆく時間をかけて歩まん君と  勝地 健一
玄関で「またね」と言いて父母の「また来い」を待つ無人の生家  金尾 桂子
歌壇には今も続けり戦死せる父や夫や友思う歌  小畑 宣之
石段(いしきだ)をきっちりと踏み初詣(まう)で淑気ただよふ境内に入る  澤田久美子
古寺の池にメダカを住まわせて蓮の芽吹きに光注ぎぬ  鈴木 敬子
残存の能力次第に減りてゆくひと日の終わりを手合わせ床に  隅出志乃惠
夕方に籾(もみ)殻の山は煙突が煙出しつつじんわり燃える  高見 俊和
新緑の山あい縫いて行くさきは鄙(ひな)の温泉俗塵(じん)洗わん  竹添田美子
犬もまた共によろこぶ顔をみすさくらの下にて家族のリーダー  富田美稚子
三日月は大丈夫よと笑むごとくこの寒空に輝きてあり  豐田 敬子
日常に艱(かん)難辛苦多々あれど信頼あればほぼよき道へ 中谷美保子
この街の本屋さん閉じ一か月静かに巡る空間欲す  中元芙美子
歳月や快楽(けらく)を生きる刹那(せつな)あり苦痛に生きる無間の闇も 茄子四季人







2023/07/07

2023(令和5年)7月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏

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20首抄(2023年6月号より抄出)

絶対の愛など無いと言う我を愛する妻の思いに涙す      茄子四季人
空中に浮遊している言の葉を脳に取り込みサクサク食べる   西本 光仁
一年目男(お)の子の看護師かいがいし言葉やさしく血管さがせり   松尾 美鈴
若き日に机を並べし仲間たち妻の仏前に顔をそろえぬ     村上 山治
ファッションショーに見るごとき衣(きぬ)を身につけて女性キャスターウクライナを言う   森重 菊江
この初夏はおくれて咲ける柘榴の花一輪 庭の白日の星    山本 真珠
見ませ、父。列車も車も走るさま 二十年(はたとせ)祝する瀬戸大橋に 吉田 征子
中海の冬日をちらしふかふかと鴨は内らに影持たぬごと    新井 邦子
こころの歌三十 (そ) 一文字に言葉込め生きいる今を抉(えぐ)り取り出す 杏野 なおみ
すずらんとクリスマスローズはひっそりと庭に咲きおり下しか向けずと  畔 美紀恵
春先に弥山ゆ眺むる瀬戸の海水脈(みお)ひく先の舟影(ふなかげ)ちさき  榎並 幸子
引き揚げの従妹に教えられし味麦焦がし汁を珈琲(コーヒー)とよびき   金子貴佐子 
募り来る戦世にありて亡き母の書きし字まざまざと我の脳裏に 木村 浩子
空さえて流星群に押さるがに一つひとつをこなしゆく日々   栗原美智子
籠が落ち驚き飛び出すオカメインコ上昇気流に乗りて消え行く 小畑 宣之
ふっくらした頬(ほ)は見る度に細りゆきゼレンスキー氏の苦が胸に来る  佐藤 静子
震災の苦渋くぐりし色白のきゃしゃとも見ゆるピッチャー強し    竹添田美子
新しき知のdoor(ドア)とはと自問セリ人影のなき図書館に座して 田中 淳子
コを上に付けて憎まんロシアの地ツンドラに春は来るのでしょうか  月原 芳子
花の下に友らと集うひと時をさくらの匂い総身にて受く    富田美稚子
2023/06/04

2023(令和5年)6月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏

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20首抄(2023年5月号より抄出)

空襲で焦土となれる姫路の地に残されし城永久(とわ)のアートぞ  田中 淳子
利害なく名もなく綾(あや)なる愛もなく ないない仲間の至宝は短歌   月原 芳子
光あれ我が存在の証(あかし)なる陰を見つめて一生(ひとよ)を生きる  茄子四季人
ディサービスは慣れるにつれて面白し歩行の形誰も同じく        平本 律枝
門灯の明かりに映えて雪の降るかかるみ冬を詠みてし越えん       廣田 怜子
バス逃しゆっくり上る坂道にタンポポ咲いてナズナが揺るる      弘野 礼子
この服は孫生(あ)れし時と折々の思い出たち来て「断捨離」進まず    松尾 美鈴 
車待つひととき開く朝刊に梅ほころぶの報が明るし           水田ヨシコ
その名には「宝物」の意込められて生(あ)れし命を守り続ける      宮本 京子
寒き川になまめき泳ぐ魚たちのつめたき瞳を思ふ時雨(しぐ)れて      森 ひなこ
「猫嫌い」と咎(とが)むる友に言わざりき台風あとのむくろ見しこと  有本 幸子
戦いが終わりぬ介護の苦しさと悲しみの荷を下ろす寂しさ        杏野なおみ
早々に飛び来しムッシュ・サルコジに核大国の動顛(てん)を見つ      大瀬  宏
オルゴールは雛(ひな)祭りの歌くりかえす写真の幼児は還暦なるを   大垰 敦子
全身を朽ち葉に抱かれ天あおぐ山の斜面に転びてわれは        岡田 寿子
泥沼に身を置くごとく我がいて返せぬ恩に今宵(こよい)まどろむ       勝地 健一
短歌会終えてたそがれ迫れども車窓にまぶし光の並木           川口 浩子
九年の空白を越えブーニンのとりもどせる音心ゆさぶる         佐藤 静子
ゆく秋を短歌手帖(ちやう)に収めむと町ゆく人を茶房に眺む      澤田久美子
明るさよ整形外科の病棟は武勇伝など各自披露す             隅出志乃惠

2023/05/05

2023(令和5年)5月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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     20首抄(2023年4月号より抄出)

歳(とし)の市浪速の町に商人(あきんど)の生きる力の声が聞こゆる 鈴木 敬子
Q Rはquick responseの頭文字 日本語化への配慮に乏し         滝沢韶一
G7いよいよ迫る広島の道路に轍(てつ)なし雪降り積もる      竹添田美子
今日ありて明日もあらんと思うこと当然ならず授かりし命     中谷美保子
あれこれとせわしき師走に立ち止まる逝きし族(うから)の鎮魂の月 中村カヨ子
人才は努力に努力あたたかき愛に包まれ力発揮す         濱本たつえ
いい人生だったと一言残しし夫そのごと天寿生き抜きたきを    松永 玲子
寒空に細くかがよう二日月 澄みし光よ地の果てまでを       柳原 孝子
講座名は「旅するためのフランス語」母と旅せし日の単語たち   山本 真珠
ふんわりと落ちたる石榴一葉の黄金の舟にわがうながさる     新井 邦子
日は笑い虹にこしかけ歌う鳥 和するものあり童の賀状      上田 勝博
特攻兵の家族と出会いその思いせつなきを聞きて我もの言えず   及川  敬
死の前夜弟(おと)に教えし本古ぶ「おらが春」その「わが家」の句はも    大越由美子
断捨離を済ませて部屋を見渡しぬまさに因幡の白うさぎなり    大垰 敦子
むなしさを晴らしたけれど術(すべ)なくてただひたすらに動き回れり    岡田 節子
その乙(おと)の初潮を告げて後(あと)十年稼ぐよと息グラスを空(あ)ける   金子貴佐子 
我が島をまたも戦に繋(つな)がんと軍備予算は決めらるる今    木村 浩子
徘徊し戻れる犬を抱きしむれば顔うずめたり日向(ひなた)おだやか    栗原美智子
きさらぎのそらの嘴(はし)みなかがやかんことばに傷むわが魂(たま)のため   黒飛 了子
始まりし未知の航海緩和航うすぎぬ脱ぎしオーロラ舞うも     近藤 史郎

2023/04/07

2023(令和5年)4月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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20首抄(2023年3月号より抄出)

かすかなる音に目凝らす本堂をルンバは回る「花まつり」のあさ  金子貴佐子
三十日(みそか)夜を居場所無き子は縁先で月のうさぎに餅をせがみし   木村 浩子
麻酔より醒(さ)めたる額の冷えのごと一枝にひとつろう梅咲けり  黒飛 了子
老いし人大声で携帯電話かく難聴者なればそれもやむなし     小畑 宣之
「忙中閑あり」とて自問自答するも夢はさめたり不燃焼のまま   竹添田美子 
静かなる龍頭の山に吸われんかここに響ける神楽の笛の音(ね)    龍野日那子
疫病(えやみ)して声もか細き君と並(な)みホワイトボードに花咲く時も   月原 芳子
夫の語る幼き別れの悲話ありて見(まみ)ゆることなく逝きにし義母 よ   中谷美保子
剪(せん)定し裸木となりもちの木はメルヘンめいて語りかけくる   濱本たつえ
霜ふかく寒々と光る白の野辺遠く焚(た)き火の煙漂う      廣田 玲子
宮人の好みし「あも」の芯は栗みどりの抹茶うすく泡だつ         松井嘉壽子
常宿はコロナ仕様に変わりても女将の笑顔と味は変わらず        宮本 京子
妻送る葬送の場に孫二人カノンを奏すバイオリンにて           村上 山治
「真樹」誌のアサギマダラに目を止むる時をわれ持つこの一年間      森重 菊江
三とせ振りにお出ましになる愛子さま気品はまさに皇女のものぞ      山本 全子
キャンパスにR・ケネディ、ガガーリン迎えし青春こころに褪(あ)せず  吉田 征子
にぎる手は昔に比べやわらかく寝たまま思う母は強しと          杏野なおみ
十月の風物詩なるサヨリ干し今年は見えず友も持て来ず          大越由美子
ただひとつ我は求むる君の歌、君の謦咳(けいがい)ここにみつるを     大瀨  宏
ひらひらと紅葉舞い落つその命の限りに人を慰むとごと          岡田 節子
2023/02/23

2023(令和5年)3月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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20首抄(2023年2月号より抄出)

真珠色の天王星が予知どおり月に入り行き月を出て行く  石井恵美子
夕方はピアノを弾きに甥が来るカップを温めレモンティーにせん  畦美紀恵
秋の昼ラフマニノフを聞きながらやわらかな陽(ひ)を公園に浴(あ)ぶ   及川 敬
大山(だいせん)を真向かいに見て父母眠る仏山にも今は登れず  大垰敦子
初日の出御魂(みたま)のように上るいま戦艦大和わが目に立てり  大塚朋子
荒れ畑に残る農家の夢の跡ぶどうの棚へ冬の雨降る  金尾桂子
名も知らぬ人の助けに命得し我を遣(つか)わせよ御(み)心ならば  栗林克行
わが夫(つま)の足にて事故にあいたるよ青虫ひとつ花壇にとむらう  栗原美智子
胸内にほのぼのひろがる学びやのタイムトンネル越えし風景  隅出志乃惠
重き荷は置きて帰れと君は言う冬日に温(ぬく)き丘の上(え)の墓碑  高本澄江
悠々とせせらぎを飛ぶ鬼やんま古里にわが感奮多し  龍野日那子
球根は生きつづくらし枯るるかと思うやすぐに伸びくるネリネ  富田美稚子
追いかけて追いかけて遊びし夏休み体ふうわりトンボのごとく  豊田敬子
寒き夜に星くず群れて流れると聞けば祈らんこの世の平和  中村カヨ子
雨つぶを葉の上(え)にのするスズランはもったりとした風に吹かるる  延近道江
歌生(あ)れず喘(あえ)げる我に頑張れと乙(おと)子はくれつ歌会用バッグ 濱本たつえ
家を売り子の住む東京へ行きし友今にほろほろ帰りたきとか  平本律枝
阿武山は秋となりつつ夕日受け薄紅に山肌映ゆる  村上山治
カラス除(よ)けのCDコツンと声をあげ明けのトマトを目覚めさせたり  森ひなこ
満月は今朝まだ天にかかりいて野を照らすなり午前六時半 守光則子

2023/02/23

2023(令和5年)2月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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20首抄(2023年1月号より抄出)

ひと駅を歩きつつ仰ぐ秋の空いちょう並木をゴールに決めて           宮本京子
生をこの齢(よわい)まできて世にあるは意味ありや外(と)に出(い)でて息吸う 森重菊江
移り行く四季の変化を織り交ぜて人の息吹を伝うる屏風絵            柳原孝子
あまたたび来たり泊まりし<錦パレス> 時刻も詠みし星空消えず         山本真珠
わけありと値引きのナスを手に取れば台風みやげの葉擦れの跡あり      山本全子
今も残る握られし手のぬくもりよ愛せし思いいよいよ深し              吉田ヒロミ
極まれば残忍となる人間をまざまざ見つつ手立てを持たず            有本幸子
木暗がりに一弁一弁ほぐしゆく黄の花びらよつわぶきの花            石井恵美子
染まり初(そ)め見る見る紅潮きわまりて情念うねる秋の夕空           上田勝博
学校へ通うつもりで暮らしおり老いの身ながら日々図書館へ  宇吹哲夫
胸詰まる診察待ちの長き間を「真樹」の中に我を置きたり  榎並幸子
新米の炊きあがりたるその時に花山葵のあるを天与というか  大塚朋子
ノコンギクの紫揺れてみつばちの羽輝けり風渡るまま  金尾桂子
一点の悔いなくて経る人ありや折り合い付けて達観したし   菅 篁子
わけもなく離れ久しき人思う部屋の片隅かすかな音に  栗林克行
邯鄲は身をふるわせていま鳴きつ 午前一時の時かがやきぬ  近藤史郎
子と来たりスマホとカードさえあれば自在に過ごせる今様の旅  佐藤静子
若者に付いて行くのは無理という脳にあらがい芝生は優し   津田育恵
下を向きころばぬように石塊(くれ)の歌を詠むのも晩年の華  月原芳子
この世界広げているかひらがなよ漢字当てたら遠くへ飛んだ   西本光仁


2023/01/05

2023(令和5年)1月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏   
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20首抄(2022年12月号より抄出)

月明かりたどれば祖母の戸の明かり遠きかなたに今も明かれる  中村カヨ子
八月の三度目となるサイレンに夫の戦(いくさ)は静かに閉じぬ  濱本たつえ
緑のみに花なき庭なりひとところ姫りんごの実が風の中なる  平本律枝
夕日(せきよう)に黒光りする茄子二つ友の持ち来るその声高く  松井嘉壽子
夕ぐれを竹群に集う雀どち声ふくらみて弾(はじ)けんばかり  松尾美鈴
短歌とは指折るときのときめきと語順選びの心躍りと  山本全子
喪主の座にありて葬儀を眺めおり我人共に縛り解かれぬ  吉田ヒロミ
ぽっつりと高きに鳥をさそうらしイチジクの実の生贄(いけにえ)の色  上田勝博
真夜をつく雷(いかずち)の音はげしくをわれ葛藤せし葉月さりゆく    榎並幸子
上部より足場はずされ現るる朱の大鳥居白雲を突く  大垰敦子
新聞に心が軽くなるとあり「ゆるす」の言葉をつぶやいてみる  畦 美紀恵
エネルギー満たんにする君を見て回転木馬の後追う辛さ  勝地健一
地の下で握りしめたるあこがれよ天に届けと咲く彼岸花  金尾桂子
ひとことの謝罪も聞けぬ被爆者の終(つい)の旅路をまたも見送る  栗林克行
雲の峰エベレストに似て一瞬をわれ高原の旅人となる  栗原美智子
半世紀越えてなおある街並みに見ゆるは若き我の姿ぞ   柴村千織
我が宿にサボテン咲かせ明けの月の短き間なる生に真向かう  鈴木敬子
ふる里は奪い立つもの多(さわ)にありゆたけき風情に命ながらう   龍野日那子
朝十時ウイスキーボンボン五個食べつわれの楽しみささやかなもの  津田育恵
バラ十輪触(ふ)ればはらはら散り落ちぬ明日もとわれはつぼみをさがす 豊田敬子