2018年10月号「前号20首抄」
木もれ日のゆるる湖畔に思い出(い)ずいちずの思いに涙ながししを 松尾 美鈴
ひと月を過ぎて早苗田分蘖(けつ)すと根張りよろしき炎天の下 松永 玲子
はるばると海山こえてくる黄砂今年も人をなやまし去りぬ 山野井 香
皇子(みこ)眠る陵墓(りょうぼ)をわたる春風は語らうごとく若葉をゆらす 吉田 征子
ユニホームをスーツに替えて姿みするそれぞれの額(ぬか)明日の風待つ 大垰 敦子
つながらぬ言の葉だけが横たわり君との距離を測るためらい 勝地 健一
報われて終わる日ばかりにはあらねそれでも今をただ生きてゆく 金尾 桂子
先の人の落とし物とり大声に追いかくる身を熱波はつつむ 柴地 暁子
木を刳(く)りて清水(きよみず)通す水車綿虫の舞う秋の妻籠よ 下井 護
着る物も食べ物もすべてつましくし懸命に生きし先祖をしのぶ 隅出志乃惠
友を待つ間に桜よく見れば「上を向けよ」と小枝教える 髙見 俊和
季(とき)を得て風を光を包み込みレタスは緑の玉を紡げり 高本 澄江
瞑想にかなう木陰か鏡山城跡に座し行雲を追う 田中 淳子
山城の跡ゆ見下ろすそのかみの穀倉の地はコンクリの街 中村 武
知らぬ間に犯しし罪のあるを知る今知るとてもなすすべ知らず 鍋谷 朝子
日常は平和な日々がつづられる退屈じゃない豊穣(じょう)なんだ 西本 光仁
柿の木は風吹く中にただ立ちて話すがごとく体をゆらす 延近 道江
警報ののち洪水に変わりゆく画面、字幕に激しさを知る 廣畑佐か江
その背(せな)は敵の目欺く木漏れ日柄バンビ瓜坊自覚のありや 福光 譲二
散歩道のかなたに見ゆる里の峰父母思えども語るとき過ぐ 堀部みどり
- 関連記事
-
- 2018年11月号「前号20首抄」
- 2018年10月号「前号20首抄」
- 2018年9月号「前号20首抄」
コメント