2022(令和4年)12月号

題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏



20首抄(2022年11月号より抄出)
うす紅のコスモス映ゆるカンバスは空の青さとかすかな風と 高本澄江
海が好き海の輝きわれのものときめく心白波に乗す 津田育恵
夕暮れをバイオリン聞こゆ原爆の日にゆかりある器を奏すらし 中谷美保子
新しき駐車場ひとつ雨の中祭りのごとく夜光を放つ 中元芙美子
しょぼしょぼと夏至の一日を降る雨よわが身の痛みにほど良き雨か 延近道江
いつ我もあの世へ行くや当然のことと思うもやはり寂しき 平本律枝
六本の脚でそろそろ進みおりわが手のひらを蟬飛び立たず 弘野礼子
老いし今はじめてを知ることばかり今日も勉強死ぬまで勉強 古澤和子
飛ばされし帽子は宙に舞いながら上下動して助け乞う如(ごと) 水田ヨシコ
わが人生夫と過ごして楽しかりき来世も一緒に苦楽をともに 村上幸江
親しげに何語れるや白さぎ二羽われ近づけば気づきて去れり 守光則子
青空に吸い込まれつつうぶ声は澄みたり蝉の出立の朝 吉田征子
ひと月の面会謝絶の解けし母焦点合わずうなずき見せず 宇吹哲夫
キラキラと夕陽(ひ)に映える街並みと電車の灯(あか)り台風一過 及川 敬
鮮やかにありしを褪(あ)する百日草力の限り生きし証しか 岡田節子
うす紅の笹百合の花は崩れ落つ花弁それぞれ雄しべを抱きて 岡田寿子
清方は踊りの所作を絵姿に けいこ帰りの乙女を捉う 川口浩子
雨予報聞きて畑にて二人して秋じゃが植えし空に虹生(あ)る 菅 篁子
満月にシルバーの我昇天し明日は琥珀(こはく)にとや叔母逝けり 栗林克行
肉に従(つ)く者なりければ夕べにはリラの香りをかなしみにけり 黒飛了子