2023(令和5年)11月号

題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏



20首抄(2023年10月号より抄出)
地(つち)に生き奏でるバッハ内声の中指の爪土の残れる 上田勝博
バンドを背にわが加われるコーラスは迫力ありて心に響く 及川 敬
万華鏡の無限のかたちに憧れて魅せられながらのぞきこむとき 大垰敦子
旅に果てて印度更紗(さ)をまとうとき二重三重(ふたえみえ)なる闇ときめきぬ 大塚朋子
布ひとつ眺め眺めて夢描き裁断までの時はも長し 岡田節子
終点は北極星か「そらの北」行きのバス地上の横川を発(た)つ 岡田寿子
杉木立の下(もと)に群れいる赤水引蒼(あお)き海底に冴(さ)えいるごとし 金子貴佐子
梅雨晴れの朝(あした)の空を統ぶるごと鳶おほどかに旋回しをり 澤田久美子
母なるかはた父やもとこの朝(あした)また見つ白蝶庭を舞いゆく 鈴木敬子
像となり夜のしじまに波聞くや波と遊びていし砂たちは 高本澄江
館内のどこをG7の長は見し情報秘匿は権力の宝刀 滝沢韶一
ぽつねんとイタチはわれの真近にいて言葉かければ草垣に入る 龍野日那子
梅雨の鬱をふり払うがに大輪の朝顔盛るワインレッドに 月原芳子
散歩にと買いし麦わら帽かぶる白きリボンを夕日に見せて 中元芙美子
十数年の時経て咲ける春蘭よ卯の花の咲くもとに確かに 延近道江
夏草を引きぬく手止め聞き入りぬ微風のなかのかそけき虫の音(ね) 原 佳風
暗がりを背戸の木々はもざわめきて獣のごとき枝の動きよ 松尾美鈴
甘き香のライラック一枝偶然に友より受けぬわが誕生日 水田ヨシコ
パン粥(がゆ)を初めて口に運ぶ時娘と分かつかっての緊張 宮本京子
どの窓より見ても日本は青葉風 ゼレンスキー氏戦地へ帰る 森ひなこ