2023(令和5年)6月号

題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏



20首抄(2023年5月号より抄出)
空襲で焦土となれる姫路の地に残されし城永久(とわ)のアートぞ 田中 淳子
利害なく名もなく綾(あや)なる愛もなく ないない仲間の至宝は短歌 月原 芳子
光あれ我が存在の証(あかし)なる陰を見つめて一生(ひとよ)を生きる 茄子四季人
ディサービスは慣れるにつれて面白し歩行の形誰も同じく 平本 律枝
門灯の明かりに映えて雪の降るかかるみ冬を詠みてし越えん 廣田 怜子
バス逃しゆっくり上る坂道にタンポポ咲いてナズナが揺るる 弘野 礼子
この服は孫生(あ)れし時と折々の思い出たち来て「断捨離」進まず 松尾 美鈴
車待つひととき開く朝刊に梅ほころぶの報が明るし 水田ヨシコ
その名には「宝物」の意込められて生(あ)れし命を守り続ける 宮本 京子
寒き川になまめき泳ぐ魚たちのつめたき瞳を思ふ時雨(しぐ)れて 森 ひなこ
「猫嫌い」と咎(とが)むる友に言わざりき台風あとのむくろ見しこと 有本 幸子
戦いが終わりぬ介護の苦しさと悲しみの荷を下ろす寂しさ 杏野なおみ
早々に飛び来しムッシュ・サルコジに核大国の動顛(てん)を見つ 大瀬 宏
オルゴールは雛(ひな)祭りの歌くりかえす写真の幼児は還暦なるを 大垰 敦子
全身を朽ち葉に抱かれ天あおぐ山の斜面に転びてわれは 岡田 寿子
泥沼に身を置くごとく我がいて返せぬ恩に今宵(こよい)まどろむ 勝地 健一
短歌会終えてたそがれ迫れども車窓にまぶし光の並木 川口 浩子
九年の空白を越えブーニンのとりもどせる音心ゆさぶる 佐藤 静子
ゆく秋を短歌手帖(ちやう)に収めむと町ゆく人を茶房に眺む 澤田久美子
明るさよ整形外科の病棟は武勇伝など各自披露す 隅出志乃惠