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2023/01/05

2023(令和5年)1月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏   
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20首抄(2022年12月号より抄出)

月明かりたどれば祖母の戸の明かり遠きかなたに今も明かれる  中村カヨ子
八月の三度目となるサイレンに夫の戦(いくさ)は静かに閉じぬ  濱本たつえ
緑のみに花なき庭なりひとところ姫りんごの実が風の中なる  平本律枝
夕日(せきよう)に黒光りする茄子二つ友の持ち来るその声高く  松井嘉壽子
夕ぐれを竹群に集う雀どち声ふくらみて弾(はじ)けんばかり  松尾美鈴
短歌とは指折るときのときめきと語順選びの心躍りと  山本全子
喪主の座にありて葬儀を眺めおり我人共に縛り解かれぬ  吉田ヒロミ
ぽっつりと高きに鳥をさそうらしイチジクの実の生贄(いけにえ)の色  上田勝博
真夜をつく雷(いかずち)の音はげしくをわれ葛藤せし葉月さりゆく    榎並幸子
上部より足場はずされ現るる朱の大鳥居白雲を突く  大垰敦子
新聞に心が軽くなるとあり「ゆるす」の言葉をつぶやいてみる  畦 美紀恵
エネルギー満たんにする君を見て回転木馬の後追う辛さ  勝地健一
地の下で握りしめたるあこがれよ天に届けと咲く彼岸花  金尾桂子
ひとことの謝罪も聞けぬ被爆者の終(つい)の旅路をまたも見送る  栗林克行
雲の峰エベレストに似て一瞬をわれ高原の旅人となる  栗原美智子
半世紀越えてなおある街並みに見ゆるは若き我の姿ぞ   柴村千織
我が宿にサボテン咲かせ明けの月の短き間なる生に真向かう  鈴木敬子
ふる里は奪い立つもの多(さわ)にありゆたけき風情に命ながらう   龍野日那子
朝十時ウイスキーボンボン五個食べつわれの楽しみささやかなもの  津田育恵
バラ十輪触(ふ)ればはらはら散り落ちぬ明日もとわれはつぼみをさがす 豊田敬子
2022/12/05

2022(令和4年)12月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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20首抄(2022年11月号より抄出)

うす紅のコスモス映ゆるカンバスは空の青さとかすかな風と   高本澄江
海が好き海の輝きわれのものときめく心白波に乗す            津田育恵
夕暮れをバイオリン聞こゆ原爆の日にゆかりある器を奏すらし     中谷美保子
新しき駐車場ひとつ雨の中祭りのごとく夜光を放つ  中元芙美子
しょぼしょぼと夏至の一日を降る雨よわが身の痛みにほど良き雨か  延近道江
いつ我もあの世へ行くや当然のことと思うもやはり寂しき  平本律枝
六本の脚でそろそろ進みおりわが手のひらを蟬飛び立たず  弘野礼子
老いし今はじめてを知ることばかり今日も勉強死ぬまで勉強  古澤和子
飛ばされし帽子は宙に舞いながら上下動して助け乞う如(ごと)  水田ヨシコ
わが人生夫と過ごして楽しかりき来世も一緒に苦楽をともに  村上幸江
親しげに何語れるや白さぎ二羽われ近づけば気づきて去れり  守光則子
青空に吸い込まれつつうぶ声は澄みたり蝉の出立の朝  吉田征子
ひと月の面会謝絶の解けし母焦点合わずうなずき見せず  宇吹哲夫
キラキラと夕陽(ひ)に映える街並みと電車の灯(あか)り台風一過  及川 敬
鮮やかにありしを褪(あ)する百日草力の限り生きし証しか  岡田節子
うす紅の笹百合の花は崩れ落つ花弁それぞれ雄しべを抱きて  岡田寿子
清方は踊りの所作を絵姿に けいこ帰りの乙女を捉う  川口浩子
雨予報聞きて畑にて二人して秋じゃが植えし空に虹生(あ)る  菅 篁子
満月にシルバーの我昇天し明日は琥珀(こはく)にとや叔母逝けり  栗林克行
肉に従(つ)く者なりければ夕べにはリラの香りをかなしみにけり  黒飛了子
2022/12/05

2022(令和4年)11月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

あわただしく過ぎしここらの年月か心づかれのなしといはなくに
信じゐしかつてはわれの知らざりし心あらはに人のふるまふ
忙しき日日を暮せば持ちゐたる怒りもいつか忘れはてゐつ
反きゆく人にも心動かざるわれをふとしもさびしむ時あり
怒(いか)らざるわれをいぶかしとする人のあるひはあらむ心に笑(ゑ)まる
担担と常あるわれを冷たしと見む友の誰彼心にうかぶ

                 『薫日』(昭和五年刊)──自照篇──かへりみて

20首抄(2022年10月号より抄出)
 
新しき世界へ行くに若さにも資格にもまさる心意気こそ     柴村千織
夏帽に手をやりにつつパラソルの女にほほ笑む夫に似る人        高本澄江
半世紀ことば無き子との蜜月をなつかしむわれ息の不在に       滝沢韶一
あじさいの色あざやかなり静かさの漂う池にその瑠璃色は        田中淳子
周りにも劣らず稲は成長す水の管理の苦労も消ゆる            津田育恵
胸をうつサーロー節子氏国連にて「核兵器禁止」へ真心を込む      中谷美保子
偶然に隣に座せる縁により文を通わしし人の死届く             中村カヨ子
朝餉(げ)ののち「ホタルの宿」を大声で歌いしも明くる日を浄土へと  濱本たつえ
築山にひときわ高く鳴く蟬よぎらぎらの夏の光煽(あを)るがに       廣田怜子
川わたり愛を語ろう星二つ地上のコロナいかほどお知りか         松井嘉壽子
一人居の将来思おゆ頑張れる気力ある間に成果出したし         水田ヨシコ
梅雨の日の紫陽花の白のいとおしさ日本の路地の白貴重なり       村上幸江
ヒロシマの原爆記念日は明日にしてようこそこの世に生(あ)れこし曾孫 守光則子
母と来たるカフェモスに飲むソーダ水を透かせば緑濃き街の樹々(きぎ) 山本真珠
遠足に来し三滝寺変わりいず段(きだ)を数えて歌友と上る         新井邦子
ケイタイを見ながら歩く若人よ理知なき日本の未来の姿か         宇吹哲夫
検査キット提出をして結果待つ神の出番か不安と期待            大垰 敦子
床の中に五七五と紛らわすコロナワクチン副反応を             金尾桂子
親族らの写真の無きにこだわるや吾(あ)子はカメラを求めてやまず    木村浩子
小浅蜊を踏めばかすかな音たてぬ生を伝うる砂のうえの声         近藤史郎
2022/10/05

2022(令和4年)10月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

相とけぬ心さびしみてありしかば逢ひて睦める夢を見にけり
夢に逢へば人の憎みの解けゐるに心をどりてわれはありける
しみじみとやさしき言葉かけられて涙ぐみたるわれを夢に見き
夢ぬちは心と心反きあふ悲しき事実(こと)し絶えてなかりき
温情はやさしく燃えてあかときの小床すがしくめざめゐるなり
憎しみをかけられつつもつゆ霜の淡く解けゆくわれふがひなし

                   『薫日』(昭和五年刊)──自照篇──夢

20首抄(2022年9月号より抄出)

うす雲に見え隠れする有り明けよGPSと我が歩み守(も)る  金子貴佐子
一夜花、静かな森にピタッ、ピタッと雄しべは散りて水面流るる     川口浩子
終活と精いっぱいの挑戦とどちらが先かみずからに問う         菅 篁子
紫陽花の移ろえる色おだやかなり石段のぼり寺まいりせり       栗原美智子
木霊(こだま)まで浮かれ出そうな夜桜に闇の華やぐ丘となるなり    廣本貢一
沖を行く快速艇をライバルに尾道水道シーサイド走る          小畑宣之
うつし身の健やかにありうれしさよ今朝も万緑の影を踏みたり     鈴木敬子
発(た)ち位置の東に東に変わる月 幼に帰る宙のクエスチョン      月原芳子
原点で拾い忘れた宝石を朝の目覚めにふと思い出す          西本光仁
葉にすがる雨粒白く光りおり五月みそかの朝出てみれば        延近道江
わが前を歩くからすの足まねて小(ち)さくスキップ小雨ふる道      弘野礼子
ほそりゆく孤独の余生寒けれど歌を詠む時二人となりぬ        松井嘉壽子
梅雨空のもとずっと見ないかたつむり紫陽花の葉にみつけてうれし 村上幸江
こむら熱く当たり飛びゆく黒猫よわけのわからぬ命だ走れ       森 ひなこ
紡ぎ来し物語の秋編夢見んかチョコレート色の葉の落つる秋      山本真珠
石の上(え)にも三年と来てなお短歌未熟なれどもいよよ励まん     山本全子
戦場の映像見慣るるわが心いのちを軽く見はじめいぬか        吉田ヒロミ
ふうわりと飛び来し鳥は電柱の碍子(がいし)にまぎれ動くともなし    有本幸子
赤レンガ庁舎の庭にそびえたつしだれかつらよ池の面に揺る     榎並幸子
コロナ下をムラ社会へと帰島せりカープ観戦は内緒の話         大越由美子


2022/09/06

2022(令和4年)9月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏 
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山本康夫の歌
 
スフの服すり切れることは考へずもろ手をあげて子は辷りくる
切れやすきスフ地の服をきたる故子が辷り台にゆくを禁ずる
宵早く寝床に入りて書をよむいつかきまれる型のごとくに
丹念によみて夜更かす心うつ歌に遭はぬに焦立ちながら
秩序なき歌氾濫するときにして命ある歌埋もるる惜しむ

                    『朝心抄』(昭和二十三年刊)──朝夕

20首抄(2022年8月号より抄出)

海を恋い散骨たのみて人逝きぬ都を統べにける非凡の人よ 石井恵美子
過疎地にて人に知られずその人は静けく逝けりコロナ禍の中      畦 美紀恵
散り敷きて庭に真白き蜜柑花実となる花は誰が撰(えら)みし      大瀨 宏
突風が野に吹きわたり少女らの白き楽譜が青空に舞う          岡田寿子
逝きし夫のやりたかりしを思い出し遺作の木彫りのふくろう磨く      岡田節子
天よりを降りくるけさの光はもゆらゆら揺れて六月たまゆら        笹田四茂枝
コロナ禍の閉鎖社会に身のおかるる今こそ作歌の夢ひらかるれ    佐藤静子
豆腐一丁求めて梅を一つ載す日の丸上がれオリンピックに       高見俊和
一点を見る目は角度変えし時世間の広さに鱗(うろこ)落ちたり      竹添田美子
多年草の一本フラッと残りしが森のひかりに目ざむやあまた       富田美稚子
真夜中に子守歌うたう夫と手をつなぎて楽しかりし日々あり       豊田敬子
春塵(じん)を運べる風にかすむ目をこすりつつ行く夕餉(げ)の買い物 中村カヨ子
コロナ禍の家族葬とて血縁をたどりて声にぬくみ確かむ         中元芙美子
芍薬のえび茶の芽はや緑なすつぼみは空を打つ撥(ばち)のごと   濱本たつえ
子供の日に鯉を思いて池、沼に生きらるるその生命力おもう      平本律枝
手の痛みこらえて珍味の礼を書き平仮名にまでルビをうつなり     松井嘉寿子
コンテナを積めるタンカー追い越して東へ帰る上空の我         宮本京子
丑(うし)三つ時目覚めし我はいかんせん歌つくるはたアベマリア歌う  村上幸江
阿武山は縦に割るがに山崩れ跡を留(とど)めてまた夏がくる      村上山治
山々の濃淡の緑ふかぶかと世のせつなさを奥処(ど)に秘むや     森重菊江