2022(令和4年)11月号

題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏


山本康夫の歌
あわただしく過ぎしここらの年月か心づかれのなしといはなくに
信じゐしかつてはわれの知らざりし心あらはに人のふるまふ
忙しき日日を暮せば持ちゐたる怒りもいつか忘れはてゐつ
反きゆく人にも心動かざるわれをふとしもさびしむ時あり
怒(いか)らざるわれをいぶかしとする人のあるひはあらむ心に笑(ゑ)まる
担担と常あるわれを冷たしと見む友の誰彼心にうかぶ
『薫日』(昭和五年刊)──自照篇──かへりみて
20首抄(2022年10月号より抄出)
新しき世界へ行くに若さにも資格にもまさる心意気こそ 柴村千織
夏帽に手をやりにつつパラソルの女にほほ笑む夫に似る人 高本澄江
半世紀ことば無き子との蜜月をなつかしむわれ息の不在に 滝沢韶一
あじさいの色あざやかなり静かさの漂う池にその瑠璃色は 田中淳子
周りにも劣らず稲は成長す水の管理の苦労も消ゆる 津田育恵
胸をうつサーロー節子氏国連にて「核兵器禁止」へ真心を込む 中谷美保子
偶然に隣に座せる縁により文を通わしし人の死届く 中村カヨ子
朝餉(げ)ののち「ホタルの宿」を大声で歌いしも明くる日を浄土へと 濱本たつえ
築山にひときわ高く鳴く蟬よぎらぎらの夏の光煽(あを)るがに 廣田怜子
川わたり愛を語ろう星二つ地上のコロナいかほどお知りか 松井嘉壽子
一人居の将来思おゆ頑張れる気力ある間に成果出したし 水田ヨシコ
梅雨の日の紫陽花の白のいとおしさ日本の路地の白貴重なり 村上幸江
ヒロシマの原爆記念日は明日にしてようこそこの世に生(あ)れこし曾孫 守光則子
母と来たるカフェモスに飲むソーダ水を透かせば緑濃き街の樹々(きぎ) 山本真珠
遠足に来し三滝寺変わりいず段(きだ)を数えて歌友と上る 新井邦子
ケイタイを見ながら歩く若人よ理知なき日本の未来の姿か 宇吹哲夫
検査キット提出をして結果待つ神の出番か不安と期待 大垰 敦子
床の中に五七五と紛らわすコロナワクチン副反応を 金尾桂子
親族らの写真の無きにこだわるや吾(あ)子はカメラを求めてやまず 木村浩子
小浅蜊を踏めばかすかな音たてぬ生を伝うる砂のうえの声 近藤史郎
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