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2022/07/23

2022(令和4年)8月号

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題字 尾上柴舟 表紙 武永槙雄
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山本康夫の歌

一軒づつ建ちゆく家に阻まれてたびたび変る街草の道
整はぬ街に幾つも道通りわが往き還る道のきまらず
草の中材木などを置きありてまたぎつつかへる街の焼あと
焼あとの広き一画かこひして材木積めりあらくさの中
藜など生ひはびこれる街中の空地をくぎりかこむ板塀

                   『朝心抄』(昭和二十三年刊)──朝の街

20首抄(2022年7月号より抄出)

青空の下(もと)もくれんは一様に見えてそれぞれ純白映ゆる 水田ヨシコ
君の住む信州めざす車窓には若き緑が光り際立つ            宮本京子
祈るだけウクライナの上(え)を祈るだけ我の出来るはただ祈るだけ  村上幸江
仏壇にうすべに一輪供えたり春の薫りを母と楽しむ  村上山治
丸善にて「真樹」もとめて読みいしとぞ「真樹」に寄りし歌友しのびぬ  柳原孝子
街灯の辺を乱舞する粉雪は吹き上ぐる風に土に届かず  石井恵美子
習い事何を残すと思えども何かは残すと時が教える  畦 美紀恵
暗涙の遺族を思うかなしみを早く乗り越え普段の生をと  宇吹哲夫
水やりのホースの先の虹見つつ立夏の朝の風に吹かれる  金尾桂子
城跡にブラスバンドの音高く早春の町は夕映えの下  小畑宣之
十字花へしばし波うつ風寄すにその真白きが心をみたす  笹田四茂枝
花色の空を夕(ゆふ)星(づつ)わたるころ遠(をち)なる叔母の訃報がとどく 澤田久美子
この中に魔法のごとき無限なる知恵秘めらるるや四角のスマホ  隅出志乃惠
助け人訪ね来りてトラクターで耕し黒土見ゆるうれしさ  豊田敬子
薄明の緑林のなか山桜風吹けるたび舞いて我が手に 永井妙子
美しいイースターカード届きたり多事多難なれど喜びの春  中谷美保子
しだれ咲く源平桃は絵日傘と草引く我にさしかけらるる  濱本たつえ
咲きそろう姫りんごのちさき白き花こんもり重なる今美しき  平本律枝
庭木なる馬酔木の花の真盛りの花房揺れるかんざしのごと  廣田怜子
知らぬことやりたきことのあれやこれや死なれぬ思い日に日に強く  福光譲二





2022/06/27

2022(令和4年)7月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

道思ふ心は燃えてつづけどもいゆきいたれる程やいくばく
或るときは貪欲のかげかすむらしいまだもわれの清まりて果てず
欲を断つ道求めつつ親鸞も一生(よ)をかけて嘆きたまひし
かへりみてわれのすがたにくらぶればあまりに高しみ仏の道
みちたぎち心きほへどこの夜ごろ体いたはりてわれの早寝す
雑用に追はるるらしき家妻が夜の眠りにつくときしらず

    『麗雲』(昭和二十二年刊)──昭和十八年──道を求めて

20首抄(2022年6月号より抄出)

ひろげたる枝いっぱいにさくら花大空染むる春を吸いおり   古澤和子
山頂に植樹する小(ち)さき人影あり彼方(かなた)ゆ見ゆや畑のわれも 松永玲子
如月のさみしき木々をふるはせて目白はゆたかに鳴き交はしゐる    森 ひなこ
満開のさくらようやく散りそむと卒寿のわれも心落ち着く          守光則子
やまじ風去りゆく朝をユスラゴの樹下にま白き花弁積もれり        吉田征子
コロナ下を電波がつなぐ友とわれ「雪がきれいよ」「雪かきしたよ」    大越由美子
化粧する鏡に入りて添う母の百面相に心を澄ます  大垰敦子
干し餅を砕き揚げたる五色あられをひなさまへ上ぐる尼寺の春  川口浩子
幸せは育てなくては逃げゆくとぞどう育まば留(とど)めおけるや  菅 篁子
沈丁花香る空き屋に山鳥のピーと鳴く声してふりかえる  栗原美智子
春彼岸水にひかりのうごきつつ蝌蚪(かと)のいのちのひしめきており  黒飛了子
春愁を断てばやる気のよみがえり詩歌ひもとく心となれり  廣本貢一
こんなにもしんしん寒き夜ならずは浮かび上がらぬ遠き日の君  柴村千織
春おそき雨にぬれつつアネモネはうつむきて今花をとじたり  鈴木敬子
参拝しふと狛犬をよく見れば後ろの脚が太くしっかり  高見俊和
寂しさを連れて墓所に登りたり連れて帰れと寂しさが言う  高本澄江
山道を下るがごとく歩めよとぞ八十五われ百歳目指す  滝沢韶一
古希過ぎし仲間集いて英文を読み解く午後よコーヒー香る  田中淳子
雪の日に救急車に乗り入院す夫はこのみし椅子を残して  豊田敬子
何気なく発せられたる言の葉を満開の桜いやしくれぬか   中元芙美子


2022/05/10

2022(令和4年)5月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏

04042302裏表紙4.5月_convert_20220627233516
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山本康夫の歌

あくがるる心を占めて刻々と満ちくる春の季感あたらし
時くれば治る病いにほけほけと寝て思う人生のよき面のみを
入院の日過ぎに思う勤務というものに制約されざる自由
わが病い篤くみとりてくれし母今は古里に老い深くいん
激痛のややおさまれば家の子の遊べるさまがまなかいに顕つ
戦場に傷つき苦しみし兵士らを思いぬ手術の痛みの際に

                 『山本康夫全歌集』(昭和六十三年刊)──補遺

20首抄(2022年4月号より抄出)
                                 
青空の私の帽子にめがけ降る雪はさながら意志もつごとく  津田育恵
真心にその折々に支えられ難のりこえて一歩踏み出す         中谷美保子
オミクロンという奇妙な名前にてじわじわ責め来(く)正月あけを     中元芙美子
ホッチキス針は小さな宝物からだを折って紙抱きしめる  西本光仁
昨夕の月食は見ず朝方に西の窓より光る月みる  延近道江
梅一輪あらばよろしと思いつつ誰にも会わぬ散歩道ゆく  松永玲子
冬日ざし浴びつつ少し遠くまで街を歩きてコロナ禍忘る  柳原孝子
迷惑をおかけしますと工事版に晴雨の日々を君はおじぎす  山本全子
束の間を園児の遊ぶ庭となるエナガ飛び交う冬の朝庭   新井邦子
暁の燃える赤玉わたりゆき沈み去るきわふたたび燃える  上田勝博
大楠は命のゆりかご十二畳の根元の穴に天神祀(まつ)らる  榎並幸子
餌を求め足らいて眠る野良猫の姿思いて我も眠りぬ   大垰敦子
わずかなる手足もて胴をくねらせてハレの舞台を泳ぐおみなご  岡田寿子
9・11に子を失いて二十年詮なきこととマイクに話す  金子貴佐子
寒々とマスク軍団うごめきて接種の順番競う街角  木村浩子
目の術後一粒一粒艶めけり夫のつくりしこの朝ごはん  栗原美智子
春の朝かっかと歩む石畳われは蹄鉄(ていてつ)もつにあらずや  黒飛了子
宇宙より還(かえ)り来る人歳晩に下界の人に何を語るや  鈴木敬子
女の孫が事あり顏してわれに対(む)き言わねど思う婚のことぞと  龍野日那子


2022/03/24

2022(令和4年)4月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

戦争記事日毎読みつつ黒人のもてる素朴さは親しみおぼゆ
槍もちて無雑作に立てる黒人の精悍なる目付はしたに敬う
近代科学の武器をふかくも憎しむは未開国エチオピアをわが思ふらし
殺戮して国奪ひあふ人類の無惨さは太古の世よりありにき
何千といふ人一瞬に死にてゆく戦争絶ゆる世はも来らず
群衆に爆弾投ぜりといふ記事は小さき見出しつきて載(の)りたる

                『薫日』(昭和十二年刊)──祖国篇──伊エ交戦

20首抄(2022年3月号より抄出)
                                 
記事を読みわからぬ言葉調べつつふとこんな日を幸せと思う      佐藤静子
六甲の森に日米欧集いしがん研究の熱き闘い               滝沢韶一
献身的医師をたよりし患者らの犠牲多かり未来断たるる         竹添田美子
左右なしのまま七年が過ぎており夫なきわが身三省(さんせい)の日々 龍野日那子
タンポポの綿毛は小(ち)さきシャンデリア夕日にかざし異国を思う    田中淳子
ハナ、ハトと学び始めてよ 九十代誌友のみちびくtomorrow-road 月原芳子
障子あけ夜空仰ぎて就寝前すべての人らのしあわせを祈(ね)ぐ     富田美稚子
真樹社へ今日はハープとともに行く感謝をこめて音届けんと       弘野礼子
山際に日が沈むなり人の世を日すがら照らし見守りし後          村上山治
大海に還(かえ)るとは死を説かるれどわが自意識はうべなわざりき   吉田ヒロミ
ながれゆくものに感じてわれの身にながるるものと和し歌いたし     上田勝博
正月はテレビのウイーンフィル聴きてリズムを取れば身も軽くなる    畦 美紀恵
気配りの年末年始すぎさりて我のからだがひゅうひゅうと鳴る      榎並幸子
温かい指導賜りし短歌道九十歳われの宝となりぬ 大津タカヱ
裏山の深山につづく猪(しし)道あり三和土(みたき)のごとくかたまりており 折口幸子
もう鳴らぬ生家の電話番号をただ眺めおりスマホ画面に         金尾桂子
さす光浴びてほころぶ梅の花天守にささぐる春とおからず         菅 篁子
宇宙をば見ていただけのわれなれどプライドを捨てて歌よまんとす   栗原美智子
明日より昼間が少し長くなるコロナ禍の世にささやかな幸         小畑宣之
こまやかに木々を整え園丁はよき小春日を広げゆくなり          廣本 貢一

2022/02/24

2022(令和4年)3月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

つれだち町ゆく子供よろこぶも手にあまる旗を両手に持ちて
午過ぎて街しづもりつたかだかと物うりの声の部屋にひゞくも
赤き芽をはつはつふきし鉢の楓ひかりの中におきてわが見る
芽をふきし鉢の楓は日のあたるところに出していつくしみたし
一本の若木の楓ひさかたのひかりの中に葉をひろげたり

        『萱原』(昭和五年刊)──大正十五年──春愁篇──お太子様の日に

20首抄(2022年2月号より抄出)
                                 
ささくれて棘(とげ)持つバラ科のハマナスは寒風の中我をはげます 勝地健一
嵐去りて萩にさわりはなかりけり花待ちて見る買い物帰り  川口浩子
紫紺ふかき巨砲を食(は)めば口中にしばし備前へ戻す秋風  近藤史郎
待つことの辛さを言えばなおさらに縁薄くなるこの人もまた  木村浩子
萩の花にシジミ蝶一つ訪(と)いきたり時を静かに刻みて遊ぶ  佐藤静子
思ひ出が独り歩きす 山畑に真白き蕎麦の花揺れてゐむ  澤田久美子
とりどりの衣装と舞いと和して閉ずパラリンピックは道を示して  柴村千織
寒々と帰りてエアコン急ぎつけご先祖さまのいます気のする  隅出志乃惠
寝椅子にはマジシャンのいてひとときを無意識界に寝落としの術 月原芳子
信条は論語の中の「恕(じょ)」とぞ言うその祖父を継ぐ中村哲氏  中村カヨ子
自分史は生きし証しぞ読む人は笑わんも身をいとしとおぼゆ  延近道江
外を歩く我につき来てあまゆるは猫好きなるが伝わりいるか  平本律枝
数滴の愛酒ふふめど眠られず今日の子悪を自(し)が手で裁く   松井嘉壽子
翼状針刺さるることに慣れし猫黙って我らに背を向けており  宮本京子
褐(かつ)ふかき分身地上に這 (は) はせつつひまはり夏のをはりをまとふ 森ひなこ
母もわれも^抒情短詩^書く異邦人^LE MADRIGAL^に座せしパリの夜 山本真珠
ままごとの髪に飾りし花八手 記憶の花の今朝まっ盛り  米田勝恵
河畔走るライトとろとろつながりて帰心乗すれどただに動かず   石井恵美子
公言をすることにより身をしばり継続をして力となせり  宇吹哲夫
欲も減りぬ贈りて喜ぶ友あればあれもこれもと手放せる我   岡田節子