2024(令和6年)3月号
題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
20首抄(2024年2月号より抄出)
リュック負い杖(つえ)つき足を引きずりて自(し)が糧求め男一人ゆく 原 佳風
伏しつつも図書返却の気になりてケイタイに見る図書番号を 水田ヨシコ
口の中水ぶくれ一つ犯人は「上海一家」の揚げたて春巻き 宮本京子
あの人にもこの人にも会えて集い合う今日の喜び「真樹」に幸あれ 柳原孝子
本意(ほい)ならず祖国を離れし人びとの悲傷の連鎖やむことあらじ 山辺洋子
邑南の水甘かるらし新米を食(は)みつつ舌にせせらぎおぼゆ 新井邦子
鮮やかな落ち葉を床に狸ひとつ毛並みすぐれてふくよかに死す 上田勝博
突然の自(し)が身にかかる不条理に臆することなく蓮池氏生く 大越由美子
留守中を溜(た)まりし仕事に対応し旅の余韻に浸る暇なき 岡田節子
残照にただよう夏の閉店は身の終焉とママは語れり 勝地健一
曉闇(ぎょうあん)に赤子泣くかとすくむわれ茅(ちがや)のもとに子猫の目見ゆ 金子貴佐子
危機一髪夫婦げんかの妙薬か上の句で言えば下の句返る 栗林克行
わがおもい頭の中で交錯し満月の夜に身を浄化せり 黒飛了子
厳冬の山のいただきに立ちぬれば滑る決心迫りくるかな 椎野祐治
今はみなおとろえ果つる姿なれどその背後に見る輝ける日々 隅出志乃惠
独り座し花火をみれば人恋し蒸し暑き風肌に絡めり 竹丸砂久湖
コロナ衰え翠巒(すいらん)のいろ紅葉し名に負う地には人らざわめく 龍野日那子
備中のレトロタウンよ吹屋道ベンガラ色に往時をしのぶ 田中淳子
先輩の歌友に励みをわがもらい「歌謡ひろしま」で幕閉じるなり 中谷美保子
湖畔から眺めし花火忘れえずともに見たりし君あらずして 中村カヨ子