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2019/09/01

2019年9月号「前号20首抄」

 20首抄(2019年8月号より抄出)ー    
  毛布薄く病む身は心細けれど感謝よみがえり春暁を蹴る          勝地 健一
  ぎこちなく鍬(くわ)打つ吾(あ)子のかたわらにわれ常にあり妻ともどもに  滝沢 韶一
  四季通し間違えず出る植物に晏如(あんじょ)たるわが一生(ひとよ)と思う  龍野日那子
      何よりも目が第一と思うとき心の内もかがやかせたし           富田美稚子
  とぼとぼと歩む白鷺行く先のこよいのねぐら定まりいるか         豊田 敬子
  山裾のおちこちシャガの品の良き仏の世界ここにあるごと         永井 妙子
  開いたるページそのままめくられず春の電車はうとうと進む        長嶋 彰子
  わが心むしばむ虫を追い出して新しき風入れてみたしや          中村カヨ子
  人一人歩かぬ過疎の里ゆけば老人施設のにぎわう声す           中本芙美子
  なつかしきインキの匂いかがんとて本を面(おもて)に置けば寝入りつ    日野 幸吉
  朝ぼらけ貨物列車の音軽し目覚める我を励ますがごと           古澤 和子
  四月よと雀の声ははしゃぎつつ花冷えのなか木々を渡りく         村上 山治
  我が庭でランプ照らしてコーヒー入るそよ風に吹かれこよい二人で     森  光枝
  男ものの靴をひこずり歩く女ふんぎりつかぬ形見かと思う         吉山 法子
  晴れた日の球場の空見上げればぷかぷかの雲つかめる気がす        井原 弘美
  吹きすさぶ春の嵐に家にいて音読したり「一握の砂」を          岩本 淑子
  山々の膨らみやまぬ新緑は変容とげる生き物とみゆ            上田 勝博
  前へ前へ毛虫が進む音ありやだれも聞こえぬ密(ひそ)かなる音       上脇 立哉
  電柱に鳥のつがい飛び来ては巣を探しおり卵ありにけん          榎並 幸子
  悩みなきように振る舞えど胸重し憂さを晴らしに野山を歩く        岡田 節子

  
 
2019/08/01

2019年8月号「前号20首抄」

 20首抄(2019年7月号より抄出)ー    
  初釜(がま)に足袋(たび)のすりゆく音ぞよきひらりと指の所作声をもつ    新井 邦子
  後輩と覚しき子たちその胸にわれのなじみしバッジを付けて         宇吹 哲夫
  「黄金の翼にのって」ヴェルディの歌口ずさむ朝の空元気(からげんき)    大瀨  宏
  代替わり承継の儀は粛々たり妃の鶸(ひわ)色の装束さゆる          大垰 敦子
  みんな旅にキャリーバッグを引き行けば地球がだんだんすり減ってくる   廣本 貢一
  平成の終(つい)の満月と報道あり東を見れば黄金(こがね)ぞ浮かぶ      小巻由佳子
  人道の世紀と新聞謳(うた)いおりでこぼこ道にいかなる花咲く       近藤 松子
  妹よ君が生まれしその頃は春の草はた水仙の黄(きい)           佐々木孫一
  燭(しょく)ともし仏間も開けて風を入れ父祖に告げたり即位の礼を     笹田四茂枝
  情念はこはいかんとも為し難く紡(つむ)ぐ解(ほど)くを繰り返すのみ     下井  護
  平成の空気吸い込み令和へとおよぐ幟(のぼり)の鯉の輝き         鈴木 敬子
  草も木も萌(きざ)して動くあらたまの元号詠みて言祝()ぐあした     月原 芳子
  雛(ひな)の軸かけかえたる日母偲(しの)びとりいだすかな形見の鼓(つづみ) 中谷美保子
  逝きし人はるかに思いいずるとき五山送り火きれいにともる        延近 道江
  平成より新時代なる令和へとこの元号も平和をつくらん          平本 律枝
  空をさし莢(さや)ふとりたる空豆は春をつめこむさ緑の濃き        廣田 玲子
  父母は身まかり子らは巣立ちたる平成の世にわが責済みぬ           松尾 美鈴
  巣づくりとつばめのつがいは玄関へ電線拠点に視察すらしも        松永 玲子
  春となり寒々とする大倭古梅の枝に花みごとなり               矢追 房子
  科学では霊性を入力できぬこと知ればAIの恐怖ぬぐわる           吉田ヒロミ

2019/06/27

2019年7月号「前号20首抄」

   20首抄(2019年6月号より抄出)ー    

  (すめらぎ)の短歌と民の短歌並む万葉集はほこるべき古典        柳原 孝子
  歌会に交わす絆の充実をわが詠む日々の光とぞせん            吉田 征子

  向こう山のこぶしの花の咲き初めて「令和」元年の春耕はじまる      米田 勝恵
  チューリップ十二の種のその芽のこと六百キロ先より子は問ひ来      和田 紀元
  取りいだす万葉巻五旅人憶良貧しき庶民により添う歌も          石井恵美子
  十一時三十分いま菅長官高々と持つ「令和」の文字を           宇田 文子
  元号は「令和」と額をかざされて戦前、戦中、戦後は遠き         大垰 敦子
  昭和平成令和を生きて米寿とう冠かぶり乾杯の声             大津タカヱ
  ありし日の父母は新居を探すごとふたりで入る墓所(ぼしょ)をさがしき   岡田 寿子
  新元号発表されし朝の雨やがてなごりの雪へと変わる           金尾 桂子
  衛星と電波の力あればこそ地球も宇宙も学びの宝庫            川口 浩子
  この年の寒波をくぐり咲く桜花むね張って生きる姿に似たる        喜多 敏子
  プロフィールに歌人と記さるる紙面にて半年続くコラムは重し       木村 浩子
  昔日の面影うすきわが里に通えるわれも体力弱る             中村  武
  先代よりの相続ならぬ恵方巻 われ反骨にて豆まきをなす         濱本たつえ
  すばしこく我が目欺くネイマール貧しき日々の友はボールか        福光 譲二
  鴨川を挟み行き来せし荒神橋研究室は双方にありて            古澤 和子
  書の審査終え安らぎぬひと時をレベルアップに息つめしのち        水田ヨシコ
  グループで一人の老いを欺くや恥の文化の失()せたる世なり       宮﨑 孝司
  神妙にはだかのままを差し出せば紙垂(しで)(はら)はれし今年のねがひ  森 ひなこ

2019/05/30

2019年6月号「前号20首抄」

   20首抄(2019年5月号より抄出)ー    

   四月 花の動悸()たなごころに包む交わす言葉の新しき朝           槙 富記子
   病には一つは治る道ありと我はも信ぜりたどりつくまで             森  光枝
   夜のはざまゾンビがウロウロかけまわる虫 花 動物 わが殺生せし       森重 菊江
   琉歌詠みそに曲付けし夫婦愛人間の象徴ともいうべくゆかし           守光 則子
   砂糖抜きチョコレート添えコーヒーを イースターの朝ビターに締めぬ      山本 真珠
   届きたる「真樹」誌巻九十第三号きみどり清(すが)しき蝶蝶を配す        米田 勝恵
   「真樹」誌の表紙の蝶よ三月は若草色して香気のぼらす             石井恵美子
   二親に感謝を示すそのためにどこまでもわがしかと生きなん           大森  勝
   美波羅川の堰(せき)落つる水のゆたかにて北へ北へと流れてゆけり          折口 幸子
   管理機に声をかけかけ畑を鋤()く風まだ寒き春の入り口            金尾 桂子
   うぐいすが上手に鳴いたとまねし夫野太き声も今はなつかし             木村久仁子
   珈琲(コーヒー)に今日は砂糖を 日ざし澄む窓辺の席につく春隣         澤田久美子
   久々に熱燗(かん)交わし夫と子は伊予の地酒に里を語れる            鈴木 敬子
   この春はそぞろ心の波うねるお代がわりの格別の年               隅出志乃惠
   蜘蛛の巣を光の網に変えにける露玉のこの危うさ称(たた)う           高本 澄江
   八十()路とは化石のごとく穏しき日新人類の余香は失()せぬ         滝沢 韶一
   封筒より三月号を手にすればラブレターのごと心躍るも             富田美稚子
   思い出も恋も涙もその背(せな)にかくすが男とわが夫に知る           永井 妙子
   大叔父は海軍士官で終戦を迎えし後(のち)を人と交じりえず           中村カヨコ
   われと子は遠く離()るるもLINE(ライン)にて撓(しな)うばかりにデータを交わす 日野 幸吉

2019/05/06

2019年5月号「前号20首抄」

   20首抄(2019年4月号より抄出)ー    

  
暖冬の安き甘藍捨てきれず屑(くず)にはせぬと急ぎ採りたり             堀部みどり
      朝集う我ら仲間は厚着して冬毛となれる柴犬を撫()ず               村上 山治
  内面を客観せんをさえぎりて内なる弁護士すぐに旗ふる                 吉田ヒロミ
  献体に供して内臓の無き吾()子を抱きて明かしき通夜の夜を            米田 勝恵
  シクラメン賜()びし友突と入院す花色見てはその上()を案ず             脇家登美子
  手に入りて卓の上なる他人顔バルサミコその謎の漆黒                 新井 邦子
  垂(しだ)れ梅枝を丸めて駕籠(かご)のごとゆるる枝の間に佐保姫御座(おわ)す 有本 保文
  爪をとぎ心をすまし思い描き一音にこめ弦を奏でる              上田 勝博
  暗闇に灯(ともしび)浮かび友いずこ五十二階の空中すみか           榎並 幸子
  古希すぎて生きいる証しを誌上にてつづることのみ生きがいとせん       岡田 節子
  リモコンの「風量切替」おしたれば音なき部屋は少し喜ぶ           喜多 敏子
  手術後に福山雅治の夢を見る夢にも思わぬ人の夢とは             後藤 祝江
  岩陰に緋鯉二匹いる冬の川夏の洪水よくも耐えたり              小畑  宣之
  介護士を目指すと通いいし肖さん姿見えぬを誰も語らず            小巻由佳子
  短歌書く冬の頃にはなぜかしら母が若くて父も同じき             佐々木孫一
  ゴムまりの弾むがごとくきびきびと君は笑みつつ人に尽くせる         柴地 暁子
  豪雨にて流されし墓所ようように再建なるを見届けにゆく           竹添田美子
  伝統の真樹の冠 重くして総身に走る雷(いかずち)の声            月原 芳子
  弟は病に負けず仏像が完成間近と心残すか                      難波 雪枝
  我が生(せい)は唯一無二の生ゆえに歌えはしない人工知能に            西本 光仁