FC2ブログ
2019/03/31

2019年4月号「前号20首抄」

   20首抄(2019年3月号より抄出)ー    

  匂いごと胸に抱えて古書店のお暗きレジの前に立ちけり          長嶋 彰子
  壁にはう蔦かずら紅(あか)く色づきて無住の家を秋に染め上ぐ       延近 道江
  くれないの葉先かわいてカラカラと冬のプロローグ坂のぼり来る        北條多美枝
  紫木蓮一夜のうちに葉を落とし庭より師走ついたちとなる         松井嘉壽子
  良寛は七十四まで生きしやなど思いて遊ぶ愚直の子らと          的場いく子
  柿の実のえもいわぬその柿の色照りかがやけりテーブルの上に       矢追 房子
  道端で片方だけの手袋が対を探さんと北風に乗る             井原 弘美
  うたかたの夢物語みてましたわが家に帰り感謝の香たく          岩本 淑子
  荒れ野には黄巾賊(こうきんぞく)が立つごとく泡立草の大群の波      上脇 立哉
  ドライブの伴(とも)が母われかと思()えど小春日の安芸の小京都よし   大越由美子
  猫ひとつ鳴かぬ夜の闇恋い猫の春も許さぬ人の無情よ          大瀬  宏
  閉ざされた母校は粋に自治の場と建て替えられぬ和みに行かん      岡畑 文香
  両の手で二つに林檎わりし日のベクトルは今いずこに向かう       勝地 健一
  母植えしろう梅の香の漂いて独りの淡き我が新春賦           金丸 洋子
  がん細胞小さくなると言うに吾()はよろこべないもうひとりの吾のいる 後藤 祝江
  冬の夜の闇よりもなお冥(くら)きなり耳削()ぐ自画像の吾()を見る眼 近藤 史郎
  ウリ坊よキミ棲()む山の麓(ふもと)より紅葉の錦いま燃えたつぞ    笹田四茂枝
  軽トラを田に横付けてもみ燃やす脇で坊やが水を得た魚(うお)        高見 俊和
  灰色の空に響ける虎落笛(もがりぶえ)(おの)が心の惑い慰む      田中 淳子
  バラの香のあふるる中に夫といて茶を飲む日々を幸とや言わん       豊田 敬子

2019/02/25

2019年3月号「前号20首抄」

   20首抄(2019年2月号より抄出)ー    
    
  敗色濃き戦況に民満載され船倉深く命をつなぐ               滝沢 韶一
  枯れすすき晩秋の風にふれ合いて「えびの高原」蒔(まき)絵のごとし   月原 芳子
  霜月尽千両の黄の増し増すにあとわずかなる今年と思う           富田美稚子
  教会に大きなリース飾られて師走の風が見届けに来る          中元芙美子
  遠地の友伴いきたる宮島に雨にぬれつつ鹿は寄りきぬ          難波 雪枝
  未完成の絵を観()るごとくマティス観るじっと観るんだ完成するまで  西本 光仁
  いつしらずカレンダー残り一枚とわかりいてまた聞けばおどろく     廣畑佐か江
  死ぬまでを狭き生け簀()でストレスと戦うハマチと知りながら買う   福光 譲二
  深霜の朝日にとけて玉の露一葉一葉にやどり光れり           松尾 美鈴
  つとめ終え紅葉したる桜木は幹艶やかに冬に入りゆく            村上 山治
  大詔奉戴日と呼ばれけり大戦の始まりし日ぞ七十七年前         守光 則子
  クリスマス・キャロルを歌い終わるころ東(ひんがし)の空白み初めしか  柳原 孝子
  羽織はかまの女先生のオルガンに和して歌いき天長節を         米田 勝恵
  外来種セイタカアワダチサウの黄の枯れて空には青の深まる       和田 紀元
  ぐわぐわと獣のごとき声あげて群烏は庭の柿の実あさる         有本 幸子
  初春の潔き空に背を押され未知なる世界の扉をたたく          井原 弘美
  人波に両手(もろて)をあげて撮らんとす福笹を売る舞妓()の笑みを   宇田 文子
  ひゅうひゅうと風雪を巻き余すなく見するは穂高の雪の鋭鋒       金丸 洋子
  川は流れ映れるビルの灯も揺れて秋の日暮れは駆け足でくる       小畑 宣之
  真白なる封書を投函(かん)せし朝(あした)ふり向けばはや町は冬なり   澤田久美子


 
 
2019/01/27

2019年2月号「前号20首抄」

   20首抄(2019年1月号より抄出)ー    
    

  なにごとか思いて留まる蟷螂の秋のさ中のわれにも似たり         笹田四茂枝  

 「あなたも要る」の「も」は絶対の者でなしわれは遊離基フリーラジカル 柴地 暁子

  土手ゆけば炎と見ゆるヒガンバナ猛暑の日々も下火と知りぬ        高見 俊和

  集う日がわが生きがいとなれるいま孫らのハグにぬくもりを得る      龍野日那子

  夏に見る青き記憶は妄想の朱(あか)と重なり少女が映える         田中  祐二   

  むくげの花朝(あした)に咲きて夕べ散るひと日の命いま音をたつ      永井 妙子

  ぶらんこのひとりが帰りゆうらりと夕日をのせる団地の公園        長嶋   彰子
     深()山にし夢殿見れば草むせり訪ね来る人多からざらん        中村カヨ子

  これの世に生きてしがらみまとえども志ひとつ持ちてゆきなん       光井 良子

  人の世はかりそめならず夫逝きて無縁の町に日々見るは海         宮迫千鶴子

  赤き芽を見せて張り出す紅葉の木雨つぶのせて静かにゆるる        矢追 房子 

  さりげなく言葉交わししかの人に心傾くと占いにあり           上田 勝博

  抱き上げし幼のにおい残りいるわれとわが身にひたりてひと日         榎並 幸子

  透明のジンのグラスに一滴(ひとしずく)レモンは神の使いなるべし     大瀬  宏

  穂芒の一筋までも輝かせ今日の光は澄みわたりたり            岡田 寿子

  引き揚げの父母の心に思い馳()せ友を誘いて舞鶴の地へ         岡田 節子

  たぎる湯に菠薐草のまみどりを放てばひとつの憂い流るる         折口 幸子 

 「朝めしまだか」と呼ぶ人はなくうつろなり露おくバラを一人摘みたり  木村久仁子

  百歳になりたる人よご詠歌に打ちゆく鉦(かね)のリズム正しく       小巻由佳子

  歌よみて心なごめるこの日ごろ詠めず苦しむ時もありうる         近藤 松子




続きを読む

2018/12/27

2019年1月号「前号20首抄」

  20首抄(2018年12月号より抄出)ー

     さるすべり細枝にわたあめあつめ九月の窓にほのかに灯 (とも) る       勝地 健一
     夏の庭でおしゃべりせし人乗せてゆく黒い車に手を合わす秋           金尾 佳子
     日本の最果ての原野サロベツに渡り鳥らのにぎわう春来()         川口 浩子
     今日明けて尾花さやかにそよぎいる銀の色して青空のもと            喜多 敏子
     地球照 こよいは澄めり秋冷の風さえ光る散歩道ゆく              近藤 史郎
     この部屋に明かりをつけて短歌書くこよいの終わり恋の終わりを         佐々木孫一
     青虫に衣とられて秋茄子の哀れなるかな裸となる朝               鈴木 敬子
     太陽はあまねく世界を照らしてる片隅なんてそれはどこなの           西本 光仁
     ダヴィデ像見し日の夜の浴室の曇れる鏡やおら拭()きたり           日野 幸吉
     秋日浴みキバナコスモス花盛り黒あげは蝶日がな来遊ぶ             廣田 玲子
     こもれ日の家に六十余年住みふっと静かに夏を見送る              北條多美枝
     六時半 東の雲はShell Blue(シェル・ブルー)ミルクの空にいまし溶けゆく  山本 真珠
     月々の「真樹」の世界に圧倒され深呼吸して表紙をめくる              吉田ヒロミ
     水害の季の花火師の哀(かな)しみよ四方(よも)の夜空のステージあれかし       吉山 法子
     おりの中タイガーに人おそわれぬ野生のスイッチ誰が押したか            的場いく子
     籠もらじと散策しては歌詠みて夜はその歌の推敲に更く               水田ヨシコ
     あめ色にかっきりと枝に張りつきて造形美みせしかの蟬いずこ            森重 菊江
     雨上がり白き一機のいざなうは東にあらん希望という町               新井 邦子
     坂の上()の雲を追いかけ走り次ぐ雲の片片(へんぺん)指に触れたく        有本 保文
     畑作に携わるだけの今日なれど髪とき紅さしやる気湧き出()ず            岡畑 文香

続きを読む

2018/11/28

2018年12月号「前号20首抄」

  20首抄(2018年11月号より抄出)ー
  
    薄茶席に男手前の頼もしく海はのどけく船通いおり            岩本 淑子
    アイフォンで音楽きくとイヤホンを着ければ演奏われ一人占め       宇吹 哲夫
    向日葵は朝日に向かい夕日にもきっちり向かうを一日の業とす       岡畑 文香
    外壁の色はいかにと思うとき富良野の丘のラベンダーの風         大垰 敦子
    秋の月さやかに照れりわが過ぎし日々をばかえりみよとごとくに      大津タカヱ
    愛を得て家内とともに人生の道をここまで来し幸せよ           大森  勝
    水晶のごとき滴は朝光を浴びて悲しみの心潤す              木村 浩子
    利き腕が難癖つけて痛めども投稿書くのは許してくれた          廣本 貢一
    台風のあとのからりと晴れた日に洗濯たたむかぐわしきとき        隅出志乃惠
    取り出してまた収めおく夏帽子あと一夏と決めて箱閉ず          高本 澄江
    豪雨災害に命残りて良かりしと目に力ありひとりの女           龍野日那子
    白鷺はさむざむ歩み畔(あぜ)よりをふわりと風に乗りて行きたり      豊田 敬子
    ごうごうとせき越える水に負けずしてあめんぼの群れ泳ぎいるなり     延近 道江
    単純にバナナの皮と思いしが「シュガースポット」は肌の劣え       樋口  礎
    ぽろぽろと庭の葡萄が落ちはじめ色づくよりを雀が食す          平本 律枝
    新婚旅行の費用を当てて水道の工事なしたる遠き日思う          廣畑佐か江
    朝そりし髭 (ひげ)は夕べの指にたつかくてあずかる命知らさる      宮崎 孝司
    人間はいかに生きしか奇岩あり古代の風景想像を超ゆ           森  光枝
    星々を知りたる日々を思いつつ赤き星見る平成の夏            吉田 征子
    真っ青な空を水(みな)底によびこんで喋り始める水面は揺るる       吉山 法子