FC2ブログ
2018/11/28

2018年12月号「前号20首抄」

  20首抄(2018年11月号より抄出)ー
  
    薄茶席に男手前の頼もしく海はのどけく船通いおり            岩本 淑子
    アイフォンで音楽きくとイヤホンを着ければ演奏われ一人占め       宇吹 哲夫
    向日葵は朝日に向かい夕日にもきっちり向かうを一日の業とす       岡畑 文香
    外壁の色はいかにと思うとき富良野の丘のラベンダーの風         大垰 敦子
    秋の月さやかに照れりわが過ぎし日々をばかえりみよとごとくに      大津タカヱ
    愛を得て家内とともに人生の道をここまで来し幸せよ           大森  勝
    水晶のごとき滴は朝光を浴びて悲しみの心潤す              木村 浩子
    利き腕が難癖つけて痛めども投稿書くのは許してくれた          廣本 貢一
    台風のあとのからりと晴れた日に洗濯たたむかぐわしきとき        隅出志乃惠
    取り出してまた収めおく夏帽子あと一夏と決めて箱閉ず          高本 澄江
    豪雨災害に命残りて良かりしと目に力ありひとりの女           龍野日那子
    白鷺はさむざむ歩み畔(あぜ)よりをふわりと風に乗りて行きたり      豊田 敬子
    ごうごうとせき越える水に負けずしてあめんぼの群れ泳ぎいるなり     延近 道江
    単純にバナナの皮と思いしが「シュガースポット」は肌の劣え       樋口  礎
    ぽろぽろと庭の葡萄が落ちはじめ色づくよりを雀が食す          平本 律枝
    新婚旅行の費用を当てて水道の工事なしたる遠き日思う          廣畑佐か江
    朝そりし髭 (ひげ)は夕べの指にたつかくてあずかる命知らさる      宮崎 孝司
    人間はいかに生きしか奇岩あり古代の風景想像を超ゆ           森  光枝
    星々を知りたる日々を思いつつ赤き星見る平成の夏            吉田 征子
    真っ青な空を水(みな)底によびこんで喋り始める水面は揺るる       吉山 法子

2018/11/01

2018年11月号「前号20首抄」

 20首抄(2018年10月号より抄出)ー
  
   災害の諸相ひどきに言葉なく断水ほどはと気を引きしめつ         脇家登美子
   貝を掘り子らの泳ぎしかの海にがれきとなりて町流れ落つ         有本 幸子
 学会号にわれらも追いし抄録みて閉じし心のキー揺らぎおり        有本 保文
 二日経て山水まだもさんさんとあふれ下りつ裾なる家に          石井恵美子
 夏朝明()(もや)ぞ立ちたる瀬戸内の居並ぶ島々断水中なり      上脇 立哉
 土曜もなく日曜もなく給水所へもらいにゆくは命の水ぞ          大越由美子
 泥につかる家内の惨のむごきこと天のなすことはけ口もなし        川上  薫
 ステントの交換上手をよろこべば医師は何よりと笑顏美し         後藤 祝江
 奪われし心はここに戻らずと残る空(うつ)ろののたうつばかり       下井  護
 諦めと忍従の色みせつつも復旧作業に君は殉ぜり             滝沢 韶一
 鉄道も幹線道路も土石流に埋まり呉市は孤島となりぬ           竹添田美子
 地図になき茨(いばら)の道を歩みたりこの災害に新たなる道        田中 淳子
 轟音たて水煙上ぐる堰(せき)となりまぶた閉ずれば大滝うかぶ       中村  武
 雨の神魔の爪持ちて荒れまくり山々の肌を引っかき去りぬ         濱本たつえ
 消磨され不滅の光放つとう墨の命に心す墨匠(しょう)           古澤 和子
 土色に濁れる今朝の海一面木切れ漂う雨の夜あけて            堀部みどり
 島の端の友より届く井戸水をこぼさぬように夕餉()のしたく       松井嘉壽子
 夕立に生き返りたるナスキュウリ災害地には傷深まらん          松尾 美鈴
 山の斜面崩し豪雨は流れつつ家屋家財の散乱むごし            松永 玲子
 わが庭に柩(ひつぎ)のあるや漂ふはクルスのごときドクダミの花      森 ひなこ

2018/10/25

2018年10月号「前号20首抄」

 20首抄(2018年9月号より抄出)ー
 木もれ日のゆるる湖畔に思い出(い)ずいちずの思いに涙ながししを      松尾 美鈴

  ひと月を過ぎて早苗田分蘖(けつ)すと根張りよろしき炎天の下               松永 玲子

 はるばると海山こえてくる黄砂今年も人をなやまし去りぬ                 山野井 香

 皇子(みこ)眠る陵墓(りょうぼ)をわたる春風は語らうごとく若葉をゆらす   吉田 征子

ユニホームをスーツに替えて姿みするそれぞれの額(ぬか)明日の風待つ     大垰 敦子

つながらぬ言の葉だけが横たわり君との距離を測るためらい              勝地 健一

報われて終わる日ばかりにはあらねそれでも今をただ生きてゆく            金尾 桂子

先の人の落とし物とり大声に追いかくる身を熱波はつつむ               柴地 暁子

木を刳()りて清水(きよみず)通す水車綿虫の舞う秋の妻籠よ                  下井  護
着る物も食べ物もすべてつましくし懸命に生きし先祖をしのぶ             隅出志乃惠

友を待つ間に桜よく見れば「上を向けよ」と小枝教える                髙見 俊和

季(とき)を得て風を光を包み込みレタスは緑の玉を紡げり               高本 澄江

瞑想にかなう木陰か鏡山城跡に座し行雲を追う                    田中 淳子

山城の跡ゆ見下ろすそのかみの穀倉の地はコンクリの街                中村  武  

知らぬ間に犯しし罪のあるを知る今知るとてもなすすべ知らず             鍋谷 朝子

日常は平和な日々がつづられる退屈じゃない豊穣(じょう)なんだ          西本 光仁

柿の木は風吹く中にただ立ちて話すがごとく体をゆらす                延近  道江

警報ののち洪水に変わりゆく画面、字幕に激しさを知る                廣畑佐か江

その背(せな)は敵の目欺く木漏れ日柄バンビ瓜坊自覚のありや         福光 譲二

散歩道のかなたに見ゆる里の峰父母思えども語るとき過ぐ         堀部みどり

2018/08/28

2018年9月号「前号20首抄」

20首抄(2018年8月号より抄出)ー
 天そばを食してのちに汽笛鳴る少し昔の糸崎駅は             樋口  礎
 きのこ雲を見し夏来たり吟じたし世界へ届け原爆のうた          藤河賀久清
 ころんだり落ちたり滑ったりの者ばかり受験生には禁忌の病室       守光 則子
 亡き母と亡き妹がたずね来る夢におどろくうたたねの午後         山野井 香
 手を伸べば花の小枝に触れるかや魔のささぬうち列車よ出(い)でよ     吉山 法子
 満開の桜に丸き月かかりたれもふわりと羽衣まとう            新井 邦子
 就活に出(い)で行く孫を見送れるわが白髪を映すミラーは         有本 幸子
 津女津中共学となれば同窓よ兼英先生名簿に後輩             石井恵美子
 亡き夫が買いてくれにし夏帽子形崩れず三十三年             岩本 淑子
 燕らよ戻り来たれるこの国の空の匂いは去年のままか           上脇 立哉
 あまたなるおのが障害気にしても仕方なければ気楽さ求む         大森  勝
 赤き舌わずかにのぞかせ石楠花は風のぬくさを確かめている        岡田 寿子
 ちょっとしたほころびいつまで繕えぬまなじり上ぐる母の夢見る      川上  薫
 世の人の知り得ぬ努力積まれけん今わが前に光る名作           川口 浩子
 撩(れう)乱の色を鼓舞してチューリップ園に人らの笑顔が歩く       廣本 貢一
 けさ生(あ)れし蝶るりいろの羽ひそと楓の若き葉に息づけり        澤田久美子 
 見上ぐれば空旋回すきのうまで我が庭にいし鳩にあらずや         竹添田美子
 紅(あか)もみじのはざ間にみゆる雲の海見上ぐるわれに朝鳥の鳴く     龍野日那子
 ガラス戸に笹の葉ゆれるかげ映り午後の薄日にあらき風見ゆ        豊田 敬子
 山吹の花びらひとつ散れるを見ひとつ年ます春をば待ちぬ         永井 妙子
 
2018/07/18

2018年8月号「前号20首抄」

 20首抄(2018年7月号より抄出)ー

   うららかな弥生の空の鶯の声に天なる母を感ぜり             中尾 廸子
 春うらら島に隠るる犯人と千二百人の警察官と              中元芙美子
 雨にぬるる紫陽花の濃き紫の目にしむ今朝の冷たき風よ          難波 雪枝
 春たちて嵐吹きあれ草木みな潤(うる)う命の芽ぞ張りにける        日野 幸吉
 気高くもかわゆき小由女人形の花はこまかき筆に成りたり         平本 律枝
 花祭りにぎわえるらし農繁期われは鍬(くわ)もて春愁をはらう       廣田 怜子
 これまさに「鬼手仏心」と心しむ緑風のなか歩いておりぬ         古澤 和子
 日と月と向かい合う間の大木は数多(あまた)の鳥の夢乗せ暮れつ      松尾 郁子
 雪の道わが足跡を残しゆく音さくさくとしじまを揺らす          村上 山治
 あのドームに誓ひし言葉忘れゆき憧れて見るセントエルモの火       森 ひなこ
 慈しみわれを育てし家族あり短歌詠むたびなつかしさ湧く         森  光枝
 ひかれゆく若者の恐ろしき表情よおのが心が刻みしものか         吉田ヒロミ
 筆太の兜太の大書「許さない」遺墨となりて夏を迎える          油野はつ枝
 金鳳花その身の毒を知るやいなや道行く人に愛敬(きょう)ふりまく     岡畑 文香
 風強まり木(こ)の葉裏見せ表見す裏見する風しずまりてほし        喜多 敏子
 花壇見るひまなくおればこぼれ種の千鳥草はも青強く咲く         幸本 信子
 河出書房「定價六拾圓」蕗のとうの装丁あせず啄木歌集          後藤 祝江
 病む足にもかなう天気と街中の小さき園に独りの花見           小巻由佳子
 自然石の粗き面(おもて)に刻みたる「天離(さか)る」の歌柴舟の筆     近藤 史郎
 しまいいし亡夫の時計のねじ巻くも共有の時永遠(とわ)にもどらず     近藤 松子