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2022/05/28

2022(令和4年)6月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌 
縁先に芽立揃へる柿若葉夕闇こもる中に明るし
あけそむる林の道に風ありて若葉の露がしげくこぼるる
あかときの林をゆけば楢林若葉しるくも匂ひたちつつ
カンナの葉園にひろがり萌え出でし朝顔の鉢を蔽ひかくせる
よべの風やみたる朝の庭くまにみだれて咲ける蔓薔薇の花
そよ風の渡らふなべにほのあかき桜のしべのうちそよぎゐる

                   『薫日』(昭和十二年刊)──季節篇──若葉

     20首抄(2022年5月号より抄出)
                                 
ラジオより道産子弁「あずましい」亡母の声のごとく聞こゆる    永井妙子
この冬も長方形のお守りが守ってくれるマスクとカイロ        西本光仁
朝日うけ共に歩める娘の影わが影越して長くうねりぬ        廣田玲子
見つめあい息をそろえてジャンプせり愛を語れる銀盤のペアは  松尾美鈴
一年の日記書き終え操りみれば二日の空白ありて思案す     水田ヨシコ
横屋跡の銀杏は冬日に耀きぬぎんなん拾う人ら待つらん      宮﨑孝司
戦争をモノクロでしか知らぬ我リアルな色で見せつけられる     宮本京子
三日月にわれの齢(よわい)をすいと乗せこぎゆかん先は満月とせん  森重菊江
雛(ひな)の節句は明日と思いつつ見上ぐれば上の畑に紅梅咲けり   守光則子
物知りの利器ありがたしスマホにて検索忘却ごっこする        吉田ヒロミ
傍(そば)あけて待つとう夫の終(つい)の言葉思いつつわが一日が暮れる 石井恵美子
現れし時は覚えず生かされて逝くとき知らずうばわれてゆく      上田勝博
独裁者の心の闇はいつからか長期政権狂気を生みしか        畦 美紀恵
籠もりいし日の歌すべて暗きなり一歩踏み出し空を仰ぎぬ      岡田節子
巣を守る六角形の形状は正確無比の蜂のコンパス           勝地健一
床の間の木五倍子(きぶし)の一枝写経部屋の我ら十人の筆を見守る  金子貴佐子
種まかず何も育てずわが人生収穫期にはせめて笑顔で       菅 篁子
雪載せて椿は私を見ていたり寒い辛いと言い訳するを        高本澄江
雨もよいの日暮れの西へ行く鳥を見つつ閑雲野鶴(かんうんやかく)を思う 龍野日那子
くちなしは雨に激しく打ちくだけ朝あさ見るに今朝も嗟嘆(さたん)す 津田育恵

2022/05/10

2022(令和4年)5月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏

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山本康夫の歌

あくがるる心を占めて刻々と満ちくる春の季感あたらし
時くれば治る病いにほけほけと寝て思う人生のよき面のみを
入院の日過ぎに思う勤務というものに制約されざる自由
わが病い篤くみとりてくれし母今は古里に老い深くいん
激痛のややおさまれば家の子の遊べるさまがまなかいに顕つ
戦場に傷つき苦しみし兵士らを思いぬ手術の痛みの際に

                 『山本康夫全歌集』(昭和六十三年刊)──補遺

20首抄(2022年4月号より抄出)
                                 
青空の私の帽子にめがけ降る雪はさながら意志もつごとく  津田育恵
真心にその折々に支えられ難のりこえて一歩踏み出す         中谷美保子
オミクロンという奇妙な名前にてじわじわ責め来(く)正月あけを     中元芙美子
ホッチキス針は小さな宝物からだを折って紙抱きしめる  西本光仁
昨夕の月食は見ず朝方に西の窓より光る月みる  延近道江
梅一輪あらばよろしと思いつつ誰にも会わぬ散歩道ゆく  松永玲子
冬日ざし浴びつつ少し遠くまで街を歩きてコロナ禍忘る  柳原孝子
迷惑をおかけしますと工事版に晴雨の日々を君はおじぎす  山本全子
束の間を園児の遊ぶ庭となるエナガ飛び交う冬の朝庭   新井邦子
暁の燃える赤玉わたりゆき沈み去るきわふたたび燃える  上田勝博
大楠は命のゆりかご十二畳の根元の穴に天神祀(まつ)らる  榎並幸子
餌を求め足らいて眠る野良猫の姿思いて我も眠りぬ   大垰敦子
わずかなる手足もて胴をくねらせてハレの舞台を泳ぐおみなご  岡田寿子
9・11に子を失いて二十年詮なきこととマイクに話す  金子貴佐子
寒々とマスク軍団うごめきて接種の順番競う街角  木村浩子
目の術後一粒一粒艶めけり夫のつくりしこの朝ごはん  栗原美智子
春の朝かっかと歩む石畳われは蹄鉄(ていてつ)もつにあらずや  黒飛了子
宇宙より還(かえ)り来る人歳晩に下界の人に何を語るや  鈴木敬子
女の孫が事あり顏してわれに対(む)き言わねど思う婚のことぞと  龍野日那子


2022/03/24

2022(令和4年)4月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

戦争記事日毎読みつつ黒人のもてる素朴さは親しみおぼゆ
槍もちて無雑作に立てる黒人の精悍なる目付はしたに敬う
近代科学の武器をふかくも憎しむは未開国エチオピアをわが思ふらし
殺戮して国奪ひあふ人類の無惨さは太古の世よりありにき
何千といふ人一瞬に死にてゆく戦争絶ゆる世はも来らず
群衆に爆弾投ぜりといふ記事は小さき見出しつきて載(の)りたる

                『薫日』(昭和十二年刊)──祖国篇──伊エ交戦

20首抄(2022年3月号より抄出)
                                 
記事を読みわからぬ言葉調べつつふとこんな日を幸せと思う      佐藤静子
六甲の森に日米欧集いしがん研究の熱き闘い               滝沢韶一
献身的医師をたよりし患者らの犠牲多かり未来断たるる         竹添田美子
左右なしのまま七年が過ぎており夫なきわが身三省(さんせい)の日々 龍野日那子
タンポポの綿毛は小(ち)さきシャンデリア夕日にかざし異国を思う    田中淳子
ハナ、ハトと学び始めてよ 九十代誌友のみちびくtomorrow-road 月原芳子
障子あけ夜空仰ぎて就寝前すべての人らのしあわせを祈(ね)ぐ     富田美稚子
真樹社へ今日はハープとともに行く感謝をこめて音届けんと       弘野礼子
山際に日が沈むなり人の世を日すがら照らし見守りし後          村上山治
大海に還(かえ)るとは死を説かるれどわが自意識はうべなわざりき   吉田ヒロミ
ながれゆくものに感じてわれの身にながるるものと和し歌いたし     上田勝博
正月はテレビのウイーンフィル聴きてリズムを取れば身も軽くなる    畦 美紀恵
気配りの年末年始すぎさりて我のからだがひゅうひゅうと鳴る      榎並幸子
温かい指導賜りし短歌道九十歳われの宝となりぬ 大津タカヱ
裏山の深山につづく猪(しし)道あり三和土(みたき)のごとくかたまりており 折口幸子
もう鳴らぬ生家の電話番号をただ眺めおりスマホ画面に         金尾桂子
さす光浴びてほころぶ梅の花天守にささぐる春とおからず         菅 篁子
宇宙をば見ていただけのわれなれどプライドを捨てて歌よまんとす   栗原美智子
明日より昼間が少し長くなるコロナ禍の世にささやかな幸         小畑宣之
こまやかに木々を整え園丁はよき小春日を広げゆくなり          廣本 貢一

2022/02/24

2022(令和4年)3月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

つれだち町ゆく子供よろこぶも手にあまる旗を両手に持ちて
午過ぎて街しづもりつたかだかと物うりの声の部屋にひゞくも
赤き芽をはつはつふきし鉢の楓ひかりの中におきてわが見る
芽をふきし鉢の楓は日のあたるところに出していつくしみたし
一本の若木の楓ひさかたのひかりの中に葉をひろげたり

        『萱原』(昭和五年刊)──大正十五年──春愁篇──お太子様の日に

20首抄(2022年2月号より抄出)
                                 
ささくれて棘(とげ)持つバラ科のハマナスは寒風の中我をはげます 勝地健一
嵐去りて萩にさわりはなかりけり花待ちて見る買い物帰り  川口浩子
紫紺ふかき巨砲を食(は)めば口中にしばし備前へ戻す秋風  近藤史郎
待つことの辛さを言えばなおさらに縁薄くなるこの人もまた  木村浩子
萩の花にシジミ蝶一つ訪(と)いきたり時を静かに刻みて遊ぶ  佐藤静子
思ひ出が独り歩きす 山畑に真白き蕎麦の花揺れてゐむ  澤田久美子
とりどりの衣装と舞いと和して閉ずパラリンピックは道を示して  柴村千織
寒々と帰りてエアコン急ぎつけご先祖さまのいます気のする  隅出志乃惠
寝椅子にはマジシャンのいてひとときを無意識界に寝落としの術 月原芳子
信条は論語の中の「恕(じょ)」とぞ言うその祖父を継ぐ中村哲氏  中村カヨ子
自分史は生きし証しぞ読む人は笑わんも身をいとしとおぼゆ  延近道江
外を歩く我につき来てあまゆるは猫好きなるが伝わりいるか  平本律枝
数滴の愛酒ふふめど眠られず今日の子悪を自(し)が手で裁く   松井嘉壽子
翼状針刺さるることに慣れし猫黙って我らに背を向けており  宮本京子
褐(かつ)ふかき分身地上に這 (は) はせつつひまはり夏のをはりをまとふ 森ひなこ
母もわれも^抒情短詩^書く異邦人^LE MADRIGAL^に座せしパリの夜 山本真珠
ままごとの髪に飾りし花八手 記憶の花の今朝まっ盛り  米田勝恵
河畔走るライトとろとろつながりて帰心乗すれどただに動かず   石井恵美子
公言をすることにより身をしばり継続をして力となせり  宇吹哲夫
欲も減りぬ贈りて喜ぶ友あればあれもこれもと手放せる我   岡田節子


2022/01/27

2022(令和4年)2月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

山々に雪がまばらに消え残り照り透る日の光冷たし
仏書のほかは興のらぬころあこがれし出離解脱の境遠き日々
世間虚仮唯物是真の幅かかる部屋に明け暮れてなお我執あり
脈うてる命のひびき聞くばかり澄みゆく夜半をむさぼりて読む
気がかりの原稿二篇成りし夜はいねがたきまで心はずめり
文学を語りて帰る雨の街心にあふるるものきわみなく

          『広島新象』(昭和三十四年刊)──昭和二十八年──壊滅の記憶

20首抄(2022年1月号より抄出)
                             
金魚の子生(あ)れて小(ち)さきは尾をゆらしウインクするかその円(つぶ)らな目 新井邦子       
よみがえる楽しみの一つ古里の彦山神社の秋の祭典 大津タカヱ
セミ穴に問いかけおれば風わたり砂は僅かに境内を這(は)う 金子貴佐子 
LEDに照る二の丸のヤマモミジ幻想のかなた能の舞あり 菅篁子
大理石の白きを踏めば脳髄にのぼりきたれり結晶世界 黒飛了子
屋根越えて行く白雲よ西方の友に便りをたのむと願う 小巻由佳子
山の端(は)を染めて夕日が沈むころ今日なさざりしことにこだはる 澤田久美子
清らなる歌声流れ中秋の月従えて姫路城立つ 柴村千織
「海の日」に散歩をせんとドア開けつ空一面が茜(あかね)に映える 高見俊和
いく千とせの宮(みや)居(い)の香りに馴染(なじ)まれし眞子さま嫁ぐ果敢な人へ 龍野日那子
朝露の落ち葉ふみふみ自転車の行く先いつもの友のやさしき 津田育惠
餅つく兎(う)をはるかに仰ぐ秋の夜半虫の音のみがしじまに響く 中村カヨ子 
遺影にと選びし写真の五十代は見知らぬ人とひ孫思わん 濱本たつえ
逆転のやむなく主夫は漫(すずろ)わし主婦の繁忙際限なきに 福島克巳
腹の出た男見るたび片足をそろりと浮かせ悪あがきする 福光譲二
片隅に押しとどめたる思い出を時にはそっと開いて楽しむ 古澤和子
日盛りの光は強くうらうらと赤瓦秋の日にゆるるごと 松永玲子
眠りいし晶子の扇子携えて短歌の門を再びたたく 宮本京子
お迎えの彼がいること内緒よと秘密つくりて孫は車中へ 山本全子
紙とペンと歌心とを友としてベッドのわれは世界の中心 吉田征子


2022/01/06

2022(令和4年)1月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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2022年(令和4年)1月号

真樹誌上短歌大会
真樹賞 森ひなこ / 康夫賞 森重菊江 / 年度賞 小巻由佳子・川口浩子 
真樹賞・康夫賞・年度賞受賞者競詠

研究 平洲の講話と鷹山の藩政改革-古典の小径153-    加藤定彦       
尾上柴舟のうた 250 福光譲二  岡田寿子  山本光珠  
内面客観の道をたずねて 山本康夫作品鑑賞 143      
                  大垰敦子  澤田久美子 村上山治  西本光仁                      
                  吉田ヒロミ 吉田征子  野坂昭雄  佐藤静子  
【近現代歌人の一首】〔源陽子〕近藤史郎
佳品嘆美*160〈万葉集〉〈北原白秋〉山本光珠  澤田久美子 
作品評   宮﨑孝司  月原芳子  山本光珠  滝沢韶一  大瀨 宏  高本澄江  
大越由美子 新井邦子  上田勝博  竹添田美子 弘野礼子
書評    新井邦子  岡田寿子  森ひなこ
作品抄出  豊田敬子  山本全子  金子貴佐子
再録  真樹の曙―旧号抄録 175
真樹のうたびと 山本康夫 / 村上正名
他誌抄録 123
記   令和三年掲載歌数集計表
真樹サロン短歌会記 113 弘野礼子       
    後記

ご案内 -2022年1月-
真樹サロン
   日時 1月21日(日)13時
   会場 真樹社               
   会費 500円(10時来会者は不要)
   出詠 1首を担当の新井邦子へ
   締切 1月15日


山本康夫の歌
引き潮の刻ぞこの時幻の街の井戸枠たしかに見たり
街ありし芦田川洲の原ひろら鳥の群が草に降りいて
石垣は運河のあとか小舟など入りくるが見ゆ幻なして
千軒の庶民の街を土深く覆う河原に吹く秋の風
遠き日の町の哀歓も土深く秘めてしらじらとなびく芦の穂
街家のかまどの跡か発掘の原ひとところ土の黒ずむ

             『樹の遠景』(昭和五十四年刊)──草戸千軒町跡

20首抄(2021年12月号より抄出)
                                
スマホ手に檀家へ急ぐ僧若し法衣を風にふくらませゆく         吉田ヒロミ   
姫蒲の細き葉陰に気配消しムギワラトンボしのびの脱皮         吉田 征子
ようやくに開きし花は気づかれて一つ二つともらわれてゆく       大越由美子
見えるもの見えざるもの等(ら)一堂に人とヴィルスのオリンピアードよ  大瀨  宏
秋雨の庭に倒れしコスモスを哀れむごとく白蝶の舞う          大津タカヱ 
自暴自棄に陥らんとき友の声一緒にお茶を飲みませんかと        岡田 節子
疲弊した血管の悲鳴聞きいれば樹木が水を吸い上げる音         勝地 健一
吹き寄せし花と戯るる昼下がり「おごはんごっこ」思い出さるる     金子貴佐子
どこまでもあくまでも青 純粋な秋の一日(ひとひ)が心をあらう     菅  篁子
衰えの増しゆく我ら元気だと嘘ぶくことも慣れればおかし        木村 浩子
岸壁を激しく攻めて来る波をテトラボッドが許さず砕く         廣本 貢一
何を待つ草蜉蝣か芹の花に生のこもれる薄羽ひからす          近藤 史郎
蜜蜂の巣箱の下に滑走路着陸離陸する豆機たち             髙見 俊和
空青し風もよろしと飛び立つや薄の穂絮は峡(かい)の真昼に       高本 澄江
八月のその朝八時十五分ひとりひとりにあったその刻(とき)       豊田 敬子
鼓の師母の通夜(つうや)の枕べに「当麻寺(たいまじ)」のひと節たむけたまいし 中谷美保子
かって読みしヘレン・ケラーの自叙伝が思われやまずパラリンピックに  中村カヨ子
くちなしの白き花びら黄ばみたり潔癖なるものの持続は難し       中元芙美子
煌煌(こうこう)と照る満月に畏(おそ)れあり雲のかかれば心ほぐぐる   濱本たつえ    
贈り主と同じ名つけしぬいぐるみ小さきクマのAlexandra(アレクサンドラ) 弘野 礼子


2021/12/01

2021(令和3年)12月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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2021年(令和3年)12月号

研究 細井平洲の巡村講話-古典の小径152- 加藤定彦      
尾上柴舟のうた 249 澤田久美子 上田勝博  山本光珠  
内面客観の道をたずね 山本康夫作品鑑賞 142      
                  石井恵美子 高本澄江 宮﨑孝司  近藤史郎
                  豊田敬子  森ひなこ  黒飛了子  佐藤静子 
【異文化essay】42 Tomorrow is another day.(明日という日もある)田中淳子 
[短歌時評]29「河北歌壇の顔」と呼ばれる人   上田勝博
佳品嘆美*159〈万葉集〉〈小島ゆかり〉山本光珠  森ひなこ 
作品評  大垰敦子  吉田ヒロミ 水野康幸  岡田寿子  大瀨 宏  月原芳子 
     濱本たつえ  
作品抄出 弘野礼子  柴村千織  井原弘美 
再録   真樹の曙―旧号抄録 174
真樹のうたびと 山本康夫 / 志田原茂子
他誌抄録 122
記   真樹サロン短歌会記 112 田中淳子 
    後記

山本康夫の歌
わが半折正面の壁に掲げあり目に見むとしてしたおそろしき
わが書ける文字のつたなさまざまざと見るにたへねば眼(まなこ)そむけぬ
劣等感堪ふるすべなみわが書よりそむけしまなこ再び向けず
                 『薫日』(昭和十二年刊)────全国書道展にて

20首抄(2021年11月号より抄出)
摘みきたるふきの葉につく蟬の殻(から)この蝉の声も聞きたるならん   廣田 怜子
過ちを許すも肝要と知りており心によする大波小波           松尾 美鈴 
直(じか)に見ること断念し検索し「揚州八怪」の画像に見入る      水田ヨシコ
武器のなき証しの握手ならずして肘(ひじ)にふれあうG7たちは      村上 山治
はつ夏の空にスケートリンクありしゅっと滑るは燕の夫婦        森 ひなこ
玄関に置きある埴輪は亡き夫の社会科授業に用いたるもの        森重 菊江
雨の日は画集を開きクリムトの黄金の中に心を浸す           新井 邦子
青蜥蜴(あおとかげ)ひとつうねうね見え隠れ草分けゆけばしたたるばかり 大瀬  宏
朝の道つゆ草のはな藍ふかくここは花野ぞ旧街道へ           折口 幸子
ながらえぬ森青蛙はオスプレイ飛ぶ街の隅の古寺の森にて        金子貴佐子
食べきれぬ西瓜望んで種とばし幼娘の壮大な夢             勝地 健一
やみに舞うほたるの恋のひとときよ地上に生(あ)るる星の世界よ      川口 浩子
遠き街の夜の点滅にんげんの領ならん空しずかなるかも         黒飛 了子
渋滞続く相手車線の運転手夕日を浴びて顔はいらだつ          小畑 宣之
雷長くとどろく窓の稲光に身をかたくして静まるを待つ         鈴木 敬子
水の神火の神祭る昭和初期炊事場浄(きよ)めし祖母の振る舞い      竹添田美子
茂みには野太き声して牛蛙がんと構えつ三尺の先            龍野日那子
何者の来るも拒まぬ青天にグレーのメガビルまたひとつ建つ       月原 芳子
世の中に起こる大禍を気にもせず季ごとの花は咲き盛るなり       富田美稚子
庭のプールの子らの顔ぶれ日替わりなり親の仕事によりてそろわず    延近 道江


2021/11/01

2021(令和3年)11月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
03110201_(2)11月号裏表紙_convert_20211101201409

山本康夫の歌
火焔山人住むをこばみ風塵のなかの遺跡の種族らいずこ
風砂すさぶ莫高窟の奥深く限りなし仏教文化の遺跡
莫高窟の仏教聖地に書き遺す人の悲しき貌に魅かるる
地下深く整然と並ぶ俑群の表情なべ昏き何故
凶作のつづくを怒り切りしとか首なし石像果てしもあらず

      『山本康夫全歌集』(昭和六十三年刊)──天山・ゴビ幻想(テレビに見て) 

20首抄(2021年10月号より抄出)                                 
ばあばあーと幼き我の泣きさけびやまびこ聞こえし爺爺岳(ちゃちゃだけ)の裾   永井 妙子
この夏はバケーションの響き消え静かなお店で筆記具選び      西本 光仁
コロナ禍も灼 (しゃく)熱の季もものともせずオリンピックの開催決まる  平本 律枝
ホームにて不意にもらったストレスが五体をめぐりメガネがくもり来   松井嘉壽子
信じたる信じたる人の行いに辛き日すぐる憎みもできず         松尾 美鈴
土葬にて葬(はぶ)りたりける墓に見し桔梗の花に祖母の笑み見ゆ     宮﨑 孝司
「海の日」や「山の日」よりも「平和の日」をヒロシマ、ナガサキの原爆の日を 守光 則子
ドローンの光にかがやく地球生(あ)る東京五輪の始まる夜を       柳原 孝子
東京五輪 競泳ののちのテレビには父島の海の魚も泳ぐ         山本 真珠
東(ひんがし)へ南へ部屋をかえ夏は北の角部屋われを迎うる       山本 全子
見事なる真夏の桜を咲かせたりスノーボードの横住さくら        米田 勝恵
孵(かえ)さんと身じろぎもせぬ鳥の目に映る果てなき空と海原      上田 勝博
アンコールワットの朝日を見るために午前四時世界中から集う      宇吹 哲夫
寛解と医者に告げられ笑む夫に我の体の鉛とけゆく           榎並 幸子
オリンピック反対論多かりしかど活躍を見て広く湧きいん        大越由美子
冒頭のわずか五分のピクトグラム言語をこえて希望を繋(つな)      大垰 敦子
降り続く雨の音するひまひまに裏山よりをせみ鳴く声す         金尾 桂子
鞆の浦さよりは列なし潮風に身を遊ばすよ日がな一日          佐藤 静子



2021/09/29

2021(令和3年)10月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
03093003_(2)10月号裏表紙_convert_20210929180631

2021年(令和3年)10月号

研究 芭蕉堂良大と香畦の手紙-古典の小径150- 加藤定彦      
尾上柴舟のうた 247 上田勝博  澤田久美子  山本光珠  
内面客観の道をたずねて 山本康夫作品鑑賞 140      
                  石井恵美子 高本澄江 宮﨑孝司  近藤史郎
                  豊田敬子  森ひなこ  吉田征子  佐藤静子 
【異文化essay】40 bed of roses(安泰な暮らし)田中淳子 
[短歌時評]28 現代短歌新聞「広島県の歌人」を読む 森ひなこ
佳品嘆美*157〈万葉集〉〈宮 柊二〉山本光珠  近藤史郎 
作品評  大垰敦子  吉田ヒロミ 山本光珠  岡田寿子  月原芳子  大瀨 宏 
     濱本たつえ 新井邦子 
作品抄出 弘野礼子  柴村千織  井原弘美 
再録   真樹の曙―旧号抄録 172
真樹のうたびと 山本康夫 / 津村富枝
他誌抄録 120
恵投書架
記    後記

ご案内 -2021年10月-
真樹サロン
   日時 10月22日(日)13時
   会場 真樹社               
   会費 500円(10時来会者は不要)
   出詠 1首を担当の新井邦子へ
   締切 10月15日


山本康夫の歌

熔岩をしつらへられし浴槽に熱きいで湯のあふれこぼるる
海潟の湯よりいづれば海はるか雨あがるらし波もきらひて
湯にほてる体さますとみんなみの海に向く窓みな開け放つ
旅にさへ選歌の稿を携へて追はるる思ひわが生(よ)に尽きず
携ふる歌稿の束を選びつぎ憩ふゆとりもなき旅終る

              『槙の実』(昭和二十八年刊)──昭和二十七年──桜島

20首抄(2021年9月号より抄出)
                                 
高齢者を優先となす接種はも儒教的なる弊と言わんか        滝沢 韶一
駅舎まで一直線の街路樹の楠を見渡す今朝の梅雨入り        竹添田美子
オルゴール過ぎ去りし日をノスタルジックにコロナコロナとうたう日は何時(いつ)   月原 芳子
過ぎし日の苦しきことを青空へ両手にかかえ放てきっぱり      津田 育恵
名作を残せる式部を思わんと石山寺にわれも詣でく         中村カヨ子
年とりて独り暮らしの通院は仕方のなきを医師はほめます      平本 律枝
休みいし練習始むと竪琴(たてごと)の弦の一本一本を撫(な)ず     弘野 礼子
老いたれば誰もが独り寂しさも誰もが抱けりこれぞ人の世      古澤 和子
庭先を八羽の子燕旋回す兄弟従兄弟ふざけあいにつつ        松尾 美鈴
過去のみは完全にわがものとなる明日のことなどケセラセラなり   森重 菊江
教室ののちなる会話はずみたりわれの記憶に歌友の名増ゆ      柳原 孝子
深紅なるジューサーに果実圧搾しはじめて飲みぬ七夕の夜      山本 真珠
小走りに雨の舗道を渡り来て飛び立ちにけりせきれい白き      石井恵美子
雨の日に塵(ごみ)出すわれへ傘をさし手伝いくれしゆきずりの人    岩本 淑子
危篤知り遠方からを駆けつけしに親子の再会許されぬとは      岡田 節子
電線に胸はりて声はずませる初燕 マラソンの勝者のごとく     岡田 寿子
コロナ禍のすき間に入れる美術館「鮭図」の前に女(おみな)寄りたり    金子貴佐子
梅雨の神の荒きすさびやこのゆうべざくろの花の朱をかき乱す    黒飛 了子
充実の形に百花つけし樹(き)がわがまどろみを侵しきらめく      近藤 史郎
お祭りも盆踊りもみな中止なり世は黙り人足早に行く        隅出志乃惠