2022(令和4年)7月号

題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏


山本康夫の歌
道思ふ心は燃えてつづけどもいゆきいたれる程やいくばく
或るときは貪欲のかげかすむらしいまだもわれの清まりて果てず
欲を断つ道求めつつ親鸞も一生(よ)をかけて嘆きたまひし
かへりみてわれのすがたにくらぶればあまりに高しみ仏の道
みちたぎち心きほへどこの夜ごろ体いたはりてわれの早寝す
雑用に追はるるらしき家妻が夜の眠りにつくときしらず
『麗雲』(昭和二十二年刊)──昭和十八年──道を求めて
20首抄(2022年6月号より抄出)
ひろげたる枝いっぱいにさくら花大空染むる春を吸いおり 古澤和子
山頂に植樹する小(ち)さき人影あり彼方(かなた)ゆ見ゆや畑のわれも 松永玲子
如月のさみしき木々をふるはせて目白はゆたかに鳴き交はしゐる 森 ひなこ
満開のさくらようやく散りそむと卒寿のわれも心落ち着く 守光則子
やまじ風去りゆく朝をユスラゴの樹下にま白き花弁積もれり 吉田征子
コロナ下を電波がつなぐ友とわれ「雪がきれいよ」「雪かきしたよ」 大越由美子
化粧する鏡に入りて添う母の百面相に心を澄ます 大垰敦子
干し餅を砕き揚げたる五色あられをひなさまへ上ぐる尼寺の春 川口浩子
幸せは育てなくては逃げゆくとぞどう育まば留(とど)めおけるや 菅 篁子
沈丁花香る空き屋に山鳥のピーと鳴く声してふりかえる 栗原美智子
春彼岸水にひかりのうごきつつ蝌蚪(かと)のいのちのひしめきており 黒飛了子
春愁を断てばやる気のよみがえり詩歌ひもとく心となれり 廣本貢一
こんなにもしんしん寒き夜ならずは浮かび上がらぬ遠き日の君 柴村千織
春おそき雨にぬれつつアネモネはうつむきて今花をとじたり 鈴木敬子
参拝しふと狛犬をよく見れば後ろの脚が太くしっかり 高見俊和
寂しさを連れて墓所に登りたり連れて帰れと寂しさが言う 高本澄江
山道を下るがごとく歩めよとぞ八十五われ百歳目指す 滝沢韶一
古希過ぎし仲間集いて英文を読み解く午後よコーヒー香る 田中淳子
雪の日に救急車に乗り入院す夫はこのみし椅子を残して 豊田敬子
何気なく発せられたる言の葉を満開の桜いやしくれぬか 中元芙美子
- 関連記事
-
- 2022(令和4年)8月号
- 2022(令和4年)7月号
- 2022(令和4年)5月号
コメント