2023(令和5年)3月号

題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏



20首抄(2023年2月号より抄出)
真珠色の天王星が予知どおり月に入り行き月を出て行く 石井恵美子
夕方はピアノを弾きに甥が来るカップを温めレモンティーにせん 畦美紀恵
秋の昼ラフマニノフを聞きながらやわらかな陽(ひ)を公園に浴(あ)ぶ 及川 敬
大山(だいせん)を真向かいに見て父母眠る仏山にも今は登れず 大垰敦子
初日の出御魂(みたま)のように上るいま戦艦大和わが目に立てり 大塚朋子
荒れ畑に残る農家の夢の跡ぶどうの棚へ冬の雨降る 金尾桂子
名も知らぬ人の助けに命得し我を遣(つか)わせよ御(み)心ならば 栗林克行
わが夫(つま)の足にて事故にあいたるよ青虫ひとつ花壇にとむらう 栗原美智子
胸内にほのぼのひろがる学びやのタイムトンネル越えし風景 隅出志乃惠
重き荷は置きて帰れと君は言う冬日に温(ぬく)き丘の上(え)の墓碑 高本澄江
悠々とせせらぎを飛ぶ鬼やんま古里にわが感奮多し 龍野日那子
球根は生きつづくらし枯るるかと思うやすぐに伸びくるネリネ 富田美稚子
追いかけて追いかけて遊びし夏休み体ふうわりトンボのごとく 豊田敬子
寒き夜に星くず群れて流れると聞けば祈らんこの世の平和 中村カヨ子
雨つぶを葉の上(え)にのするスズランはもったりとした風に吹かるる 延近道江
歌生(あ)れず喘(あえ)げる我に頑張れと乙(おと)子はくれつ歌会用バッグ 濱本たつえ
家を売り子の住む東京へ行きし友今にほろほろ帰りたきとか 平本律枝
阿武山は秋となりつつ夕日受け薄紅に山肌映ゆる 村上山治
カラス除(よ)けのCDコツンと声をあげ明けのトマトを目覚めさせたり 森ひなこ
満月は今朝まだ天にかかりいて野を照らすなり午前六時半 守光則子