FC2ブログ
2022/01/27

2022(令和4年)2月号

04012701_convert_20220216091226.jpg
題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
04012702_convert_20220216092548.jpg
04012703_convert_20220216093244.jpg

山本康夫の歌

山々に雪がまばらに消え残り照り透る日の光冷たし
仏書のほかは興のらぬころあこがれし出離解脱の境遠き日々
世間虚仮唯物是真の幅かかる部屋に明け暮れてなお我執あり
脈うてる命のひびき聞くばかり澄みゆく夜半をむさぼりて読む
気がかりの原稿二篇成りし夜はいねがたきまで心はずめり
文学を語りて帰る雨の街心にあふるるものきわみなく

          『広島新象』(昭和三十四年刊)──昭和二十八年──壊滅の記憶

20首抄(2022年1月号より抄出)
                             
金魚の子生(あ)れて小(ち)さきは尾をゆらしウインクするかその円(つぶ)らな目 新井邦子       
よみがえる楽しみの一つ古里の彦山神社の秋の祭典 大津タカヱ
セミ穴に問いかけおれば風わたり砂は僅かに境内を這(は)う 金子貴佐子 
LEDに照る二の丸のヤマモミジ幻想のかなた能の舞あり 菅篁子
大理石の白きを踏めば脳髄にのぼりきたれり結晶世界 黒飛了子
屋根越えて行く白雲よ西方の友に便りをたのむと願う 小巻由佳子
山の端(は)を染めて夕日が沈むころ今日なさざりしことにこだはる 澤田久美子
清らなる歌声流れ中秋の月従えて姫路城立つ 柴村千織
「海の日」に散歩をせんとドア開けつ空一面が茜(あかね)に映える 高見俊和
いく千とせの宮(みや)居(い)の香りに馴染(なじ)まれし眞子さま嫁ぐ果敢な人へ 龍野日那子
朝露の落ち葉ふみふみ自転車の行く先いつもの友のやさしき 津田育惠
餅つく兎(う)をはるかに仰ぐ秋の夜半虫の音のみがしじまに響く 中村カヨ子 
遺影にと選びし写真の五十代は見知らぬ人とひ孫思わん 濱本たつえ
逆転のやむなく主夫は漫(すずろ)わし主婦の繁忙際限なきに 福島克巳
腹の出た男見るたび片足をそろりと浮かせ悪あがきする 福光譲二
片隅に押しとどめたる思い出を時にはそっと開いて楽しむ 古澤和子
日盛りの光は強くうらうらと赤瓦秋の日にゆるるごと 松永玲子
眠りいし晶子の扇子携えて短歌の門を再びたたく 宮本京子
お迎えの彼がいること内緒よと秘密つくりて孫は車中へ 山本全子
紙とペンと歌心とを友としてベッドのわれは世界の中心 吉田征子