ー20首抄(2019年7月号より抄出)ー
初釜(がま)に足袋(たび)のすりゆく音ぞよきひらりと指の所作声をもつ 新井 邦子
後輩と覚しき子たちその胸にわれのなじみしバッジを付けて 宇吹 哲夫
「黄金の翼にのって」ヴェルディの歌口ずさむ朝の空元気(からげんき) 大瀨 宏
代替わり承継の儀は粛々たり妃の鶸(ひわ)色の装束さゆる 大垰 敦子
みんな旅にキャリーバッグを引き行けば地球がだんだんすり減ってくる 廣本 貢一
平成の終(つい)の満月と報道あり東を見れば黄金(こがね)ぞ浮かぶ 小巻由佳子
人道の世紀と新聞謳(うた)いおりでこぼこ道にいかなる花咲く 近藤 松子
妹よ君が生まれしその頃は春の草はた水仙の黄(きい) 佐々木孫一
燭(しょく)ともし仏間も開けて風を入れ父祖に告げたり即位の礼を 笹田四茂枝
情念はこはいかんとも為し難く紡(つむ)ぐ解(ほど)くを繰り返すのみ 下井 護
平成の空気吸い込み令和へとおよぐ幟(のぼり)の鯉の輝き 鈴木 敬子
草も木も萌(きざ)して動くあらたまの元号詠みて言祝(ほ)ぐあした 月原 芳子
雛(ひな)の軸かけかえたる日母偲(しの)びとりいだすかな形見の鼓(つづみ) 中谷美保子
逝きし人はるかに思いいずるとき五山送り火きれいにともる 延近 道江
平成より新時代なる令和へとこの元号も平和をつくらん 平本 律枝
空をさし莢(さや)ふとりたる空豆は春をつめこむさ緑の濃き 廣田 玲子
父母は身まかり子らは巣立ちたる平成の世にわが責済みぬ 松尾 美鈴
巣づくりとつばめのつがいは玄関へ電線拠点に視察すらしも 松永 玲子
春となり寒々とする大倭古梅の枝に花みごとなり 矢追 房子
科学では霊性を入力できぬこと知ればAIの恐怖ぬぐわる 吉田ヒロミ