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2022/10/05

2022(令和4年)10月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

相とけぬ心さびしみてありしかば逢ひて睦める夢を見にけり
夢に逢へば人の憎みの解けゐるに心をどりてわれはありける
しみじみとやさしき言葉かけられて涙ぐみたるわれを夢に見き
夢ぬちは心と心反きあふ悲しき事実(こと)し絶えてなかりき
温情はやさしく燃えてあかときの小床すがしくめざめゐるなり
憎しみをかけられつつもつゆ霜の淡く解けゆくわれふがひなし

                   『薫日』(昭和五年刊)──自照篇──夢

20首抄(2022年9月号より抄出)

うす雲に見え隠れする有り明けよGPSと我が歩み守(も)る  金子貴佐子
一夜花、静かな森にピタッ、ピタッと雄しべは散りて水面流るる     川口浩子
終活と精いっぱいの挑戦とどちらが先かみずからに問う         菅 篁子
紫陽花の移ろえる色おだやかなり石段のぼり寺まいりせり       栗原美智子
木霊(こだま)まで浮かれ出そうな夜桜に闇の華やぐ丘となるなり    廣本貢一
沖を行く快速艇をライバルに尾道水道シーサイド走る          小畑宣之
うつし身の健やかにありうれしさよ今朝も万緑の影を踏みたり     鈴木敬子
発(た)ち位置の東に東に変わる月 幼に帰る宙のクエスチョン      月原芳子
原点で拾い忘れた宝石を朝の目覚めにふと思い出す          西本光仁
葉にすがる雨粒白く光りおり五月みそかの朝出てみれば        延近道江
わが前を歩くからすの足まねて小(ち)さくスキップ小雨ふる道      弘野礼子
ほそりゆく孤独の余生寒けれど歌を詠む時二人となりぬ        松井嘉壽子
梅雨空のもとずっと見ないかたつむり紫陽花の葉にみつけてうれし 村上幸江
こむら熱く当たり飛びゆく黒猫よわけのわからぬ命だ走れ       森 ひなこ
紡ぎ来し物語の秋編夢見んかチョコレート色の葉の落つる秋      山本真珠
石の上(え)にも三年と来てなお短歌未熟なれどもいよよ励まん     山本全子
戦場の映像見慣るるわが心いのちを軽く見はじめいぬか        吉田ヒロミ
ふうわりと飛び来し鳥は電柱の碍子(がいし)にまぎれ動くともなし    有本幸子
赤レンガ庁舎の庭にそびえたつしだれかつらよ池の面に揺る     榎並幸子
コロナ下をムラ社会へと帰島せりカープ観戦は内緒の話         大越由美子


2022/09/06

2022(令和4年)9月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏 
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山本康夫の歌
 
スフの服すり切れることは考へずもろ手をあげて子は辷りくる
切れやすきスフ地の服をきたる故子が辷り台にゆくを禁ずる
宵早く寝床に入りて書をよむいつかきまれる型のごとくに
丹念によみて夜更かす心うつ歌に遭はぬに焦立ちながら
秩序なき歌氾濫するときにして命ある歌埋もるる惜しむ

                    『朝心抄』(昭和二十三年刊)──朝夕

20首抄(2022年8月号より抄出)

海を恋い散骨たのみて人逝きぬ都を統べにける非凡の人よ 石井恵美子
過疎地にて人に知られずその人は静けく逝けりコロナ禍の中      畦 美紀恵
散り敷きて庭に真白き蜜柑花実となる花は誰が撰(えら)みし      大瀨 宏
突風が野に吹きわたり少女らの白き楽譜が青空に舞う          岡田寿子
逝きし夫のやりたかりしを思い出し遺作の木彫りのふくろう磨く      岡田節子
天よりを降りくるけさの光はもゆらゆら揺れて六月たまゆら        笹田四茂枝
コロナ禍の閉鎖社会に身のおかるる今こそ作歌の夢ひらかるれ    佐藤静子
豆腐一丁求めて梅を一つ載す日の丸上がれオリンピックに       高見俊和
一点を見る目は角度変えし時世間の広さに鱗(うろこ)落ちたり      竹添田美子
多年草の一本フラッと残りしが森のひかりに目ざむやあまた       富田美稚子
真夜中に子守歌うたう夫と手をつなぎて楽しかりし日々あり       豊田敬子
春塵(じん)を運べる風にかすむ目をこすりつつ行く夕餉(げ)の買い物 中村カヨ子
コロナ禍の家族葬とて血縁をたどりて声にぬくみ確かむ         中元芙美子
芍薬のえび茶の芽はや緑なすつぼみは空を打つ撥(ばち)のごと   濱本たつえ
子供の日に鯉を思いて池、沼に生きらるるその生命力おもう      平本律枝
手の痛みこらえて珍味の礼を書き平仮名にまでルビをうつなり     松井嘉寿子
コンテナを積めるタンカー追い越して東へ帰る上空の我         宮本京子
丑(うし)三つ時目覚めし我はいかんせん歌つくるはたアベマリア歌う  村上幸江
阿武山は縦に割るがに山崩れ跡を留(とど)めてまた夏がくる      村上山治
山々の濃淡の緑ふかぶかと世のせつなさを奥処(ど)に秘むや     森重菊江
2022/07/23

2022(令和4年)8月号

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題字 尾上柴舟 表紙 武永槙雄
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山本康夫の歌

一軒づつ建ちゆく家に阻まれてたびたび変る街草の道
整はぬ街に幾つも道通りわが往き還る道のきまらず
草の中材木などを置きありてまたぎつつかへる街の焼あと
焼あとの広き一画かこひして材木積めりあらくさの中
藜など生ひはびこれる街中の空地をくぎりかこむ板塀

                   『朝心抄』(昭和二十三年刊)──朝の街

20首抄(2022年7月号より抄出)

青空の下(もと)もくれんは一様に見えてそれぞれ純白映ゆる 水田ヨシコ
君の住む信州めざす車窓には若き緑が光り際立つ            宮本京子
祈るだけウクライナの上(え)を祈るだけ我の出来るはただ祈るだけ  村上幸江
仏壇にうすべに一輪供えたり春の薫りを母と楽しむ  村上山治
丸善にて「真樹」もとめて読みいしとぞ「真樹」に寄りし歌友しのびぬ  柳原孝子
街灯の辺を乱舞する粉雪は吹き上ぐる風に土に届かず  石井恵美子
習い事何を残すと思えども何かは残すと時が教える  畦 美紀恵
暗涙の遺族を思うかなしみを早く乗り越え普段の生をと  宇吹哲夫
水やりのホースの先の虹見つつ立夏の朝の風に吹かれる  金尾桂子
城跡にブラスバンドの音高く早春の町は夕映えの下  小畑宣之
十字花へしばし波うつ風寄すにその真白きが心をみたす  笹田四茂枝
花色の空を夕(ゆふ)星(づつ)わたるころ遠(をち)なる叔母の訃報がとどく 澤田久美子
この中に魔法のごとき無限なる知恵秘めらるるや四角のスマホ  隅出志乃惠
助け人訪ね来りてトラクターで耕し黒土見ゆるうれしさ  豊田敬子
薄明の緑林のなか山桜風吹けるたび舞いて我が手に 永井妙子
美しいイースターカード届きたり多事多難なれど喜びの春  中谷美保子
しだれ咲く源平桃は絵日傘と草引く我にさしかけらるる  濱本たつえ
咲きそろう姫りんごのちさき白き花こんもり重なる今美しき  平本律枝
庭木なる馬酔木の花の真盛りの花房揺れるかんざしのごと  廣田怜子
知らぬことやりたきことのあれやこれや死なれぬ思い日に日に強く  福光譲二





2022/06/27

2022(令和4年)7月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
04062202令和4年7月号裏表紙_convert_20220627224539
04062203令和4年7月号目次_convert_20220627225749
山本康夫の歌

道思ふ心は燃えてつづけどもいゆきいたれる程やいくばく
或るときは貪欲のかげかすむらしいまだもわれの清まりて果てず
欲を断つ道求めつつ親鸞も一生(よ)をかけて嘆きたまひし
かへりみてわれのすがたにくらぶればあまりに高しみ仏の道
みちたぎち心きほへどこの夜ごろ体いたはりてわれの早寝す
雑用に追はるるらしき家妻が夜の眠りにつくときしらず

    『麗雲』(昭和二十二年刊)──昭和十八年──道を求めて

20首抄(2022年6月号より抄出)

ひろげたる枝いっぱいにさくら花大空染むる春を吸いおり   古澤和子
山頂に植樹する小(ち)さき人影あり彼方(かなた)ゆ見ゆや畑のわれも 松永玲子
如月のさみしき木々をふるはせて目白はゆたかに鳴き交はしゐる    森 ひなこ
満開のさくらようやく散りそむと卒寿のわれも心落ち着く          守光則子
やまじ風去りゆく朝をユスラゴの樹下にま白き花弁積もれり        吉田征子
コロナ下を電波がつなぐ友とわれ「雪がきれいよ」「雪かきしたよ」    大越由美子
化粧する鏡に入りて添う母の百面相に心を澄ます  大垰敦子
干し餅を砕き揚げたる五色あられをひなさまへ上ぐる尼寺の春  川口浩子
幸せは育てなくては逃げゆくとぞどう育まば留(とど)めおけるや  菅 篁子
沈丁花香る空き屋に山鳥のピーと鳴く声してふりかえる  栗原美智子
春彼岸水にひかりのうごきつつ蝌蚪(かと)のいのちのひしめきており  黒飛了子
春愁を断てばやる気のよみがえり詩歌ひもとく心となれり  廣本貢一
こんなにもしんしん寒き夜ならずは浮かび上がらぬ遠き日の君  柴村千織
春おそき雨にぬれつつアネモネはうつむきて今花をとじたり  鈴木敬子
参拝しふと狛犬をよく見れば後ろの脚が太くしっかり  高見俊和
寂しさを連れて墓所に登りたり連れて帰れと寂しさが言う  高本澄江
山道を下るがごとく歩めよとぞ八十五われ百歳目指す  滝沢韶一
古希過ぎし仲間集いて英文を読み解く午後よコーヒー香る  田中淳子
雪の日に救急車に乗り入院す夫はこのみし椅子を残して  豊田敬子
何気なく発せられたる言の葉を満開の桜いやしくれぬか   中元芙美子


2022/05/28

2022(令和4年)6月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌 
縁先に芽立揃へる柿若葉夕闇こもる中に明るし
あけそむる林の道に風ありて若葉の露がしげくこぼるる
あかときの林をゆけば楢林若葉しるくも匂ひたちつつ
カンナの葉園にひろがり萌え出でし朝顔の鉢を蔽ひかくせる
よべの風やみたる朝の庭くまにみだれて咲ける蔓薔薇の花
そよ風の渡らふなべにほのあかき桜のしべのうちそよぎゐる

                   『薫日』(昭和十二年刊)──季節篇──若葉

     20首抄(2022年5月号より抄出)
                                 
ラジオより道産子弁「あずましい」亡母の声のごとく聞こゆる    永井妙子
この冬も長方形のお守りが守ってくれるマスクとカイロ        西本光仁
朝日うけ共に歩める娘の影わが影越して長くうねりぬ        廣田玲子
見つめあい息をそろえてジャンプせり愛を語れる銀盤のペアは  松尾美鈴
一年の日記書き終え操りみれば二日の空白ありて思案す     水田ヨシコ
横屋跡の銀杏は冬日に耀きぬぎんなん拾う人ら待つらん      宮﨑孝司
戦争をモノクロでしか知らぬ我リアルな色で見せつけられる     宮本京子
三日月にわれの齢(よわい)をすいと乗せこぎゆかん先は満月とせん  森重菊江
雛(ひな)の節句は明日と思いつつ見上ぐれば上の畑に紅梅咲けり   守光則子
物知りの利器ありがたしスマホにて検索忘却ごっこする        吉田ヒロミ
傍(そば)あけて待つとう夫の終(つい)の言葉思いつつわが一日が暮れる 石井恵美子
現れし時は覚えず生かされて逝くとき知らずうばわれてゆく      上田勝博
独裁者の心の闇はいつからか長期政権狂気を生みしか        畦 美紀恵
籠もりいし日の歌すべて暗きなり一歩踏み出し空を仰ぎぬ      岡田節子
巣を守る六角形の形状は正確無比の蜂のコンパス           勝地健一
床の間の木五倍子(きぶし)の一枝写経部屋の我ら十人の筆を見守る  金子貴佐子
種まかず何も育てずわが人生収穫期にはせめて笑顔で       菅 篁子
雪載せて椿は私を見ていたり寒い辛いと言い訳するを        高本澄江
雨もよいの日暮れの西へ行く鳥を見つつ閑雲野鶴(かんうんやかく)を思う 龍野日那子
くちなしは雨に激しく打ちくだけ朝あさ見るに今朝も嗟嘆(さたん)す 津田育恵

2022/05/10

2022(令和4年)5月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏

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山本康夫の歌

あくがるる心を占めて刻々と満ちくる春の季感あたらし
時くれば治る病いにほけほけと寝て思う人生のよき面のみを
入院の日過ぎに思う勤務というものに制約されざる自由
わが病い篤くみとりてくれし母今は古里に老い深くいん
激痛のややおさまれば家の子の遊べるさまがまなかいに顕つ
戦場に傷つき苦しみし兵士らを思いぬ手術の痛みの際に

                 『山本康夫全歌集』(昭和六十三年刊)──補遺

20首抄(2022年4月号より抄出)
                                 
青空の私の帽子にめがけ降る雪はさながら意志もつごとく  津田育恵
真心にその折々に支えられ難のりこえて一歩踏み出す         中谷美保子
オミクロンという奇妙な名前にてじわじわ責め来(く)正月あけを     中元芙美子
ホッチキス針は小さな宝物からだを折って紙抱きしめる  西本光仁
昨夕の月食は見ず朝方に西の窓より光る月みる  延近道江
梅一輪あらばよろしと思いつつ誰にも会わぬ散歩道ゆく  松永玲子
冬日ざし浴びつつ少し遠くまで街を歩きてコロナ禍忘る  柳原孝子
迷惑をおかけしますと工事版に晴雨の日々を君はおじぎす  山本全子
束の間を園児の遊ぶ庭となるエナガ飛び交う冬の朝庭   新井邦子
暁の燃える赤玉わたりゆき沈み去るきわふたたび燃える  上田勝博
大楠は命のゆりかご十二畳の根元の穴に天神祀(まつ)らる  榎並幸子
餌を求め足らいて眠る野良猫の姿思いて我も眠りぬ   大垰敦子
わずかなる手足もて胴をくねらせてハレの舞台を泳ぐおみなご  岡田寿子
9・11に子を失いて二十年詮なきこととマイクに話す  金子貴佐子
寒々とマスク軍団うごめきて接種の順番競う街角  木村浩子
目の術後一粒一粒艶めけり夫のつくりしこの朝ごはん  栗原美智子
春の朝かっかと歩む石畳われは蹄鉄(ていてつ)もつにあらずや  黒飛了子
宇宙より還(かえ)り来る人歳晩に下界の人に何を語るや  鈴木敬子
女の孫が事あり顏してわれに対(む)き言わねど思う婚のことぞと  龍野日那子


2022/03/24

2022(令和4年)4月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

戦争記事日毎読みつつ黒人のもてる素朴さは親しみおぼゆ
槍もちて無雑作に立てる黒人の精悍なる目付はしたに敬う
近代科学の武器をふかくも憎しむは未開国エチオピアをわが思ふらし
殺戮して国奪ひあふ人類の無惨さは太古の世よりありにき
何千といふ人一瞬に死にてゆく戦争絶ゆる世はも来らず
群衆に爆弾投ぜりといふ記事は小さき見出しつきて載(の)りたる

                『薫日』(昭和十二年刊)──祖国篇──伊エ交戦

20首抄(2022年3月号より抄出)
                                 
記事を読みわからぬ言葉調べつつふとこんな日を幸せと思う      佐藤静子
六甲の森に日米欧集いしがん研究の熱き闘い               滝沢韶一
献身的医師をたよりし患者らの犠牲多かり未来断たるる         竹添田美子
左右なしのまま七年が過ぎており夫なきわが身三省(さんせい)の日々 龍野日那子
タンポポの綿毛は小(ち)さきシャンデリア夕日にかざし異国を思う    田中淳子
ハナ、ハトと学び始めてよ 九十代誌友のみちびくtomorrow-road 月原芳子
障子あけ夜空仰ぎて就寝前すべての人らのしあわせを祈(ね)ぐ     富田美稚子
真樹社へ今日はハープとともに行く感謝をこめて音届けんと       弘野礼子
山際に日が沈むなり人の世を日すがら照らし見守りし後          村上山治
大海に還(かえ)るとは死を説かるれどわが自意識はうべなわざりき   吉田ヒロミ
ながれゆくものに感じてわれの身にながるるものと和し歌いたし     上田勝博
正月はテレビのウイーンフィル聴きてリズムを取れば身も軽くなる    畦 美紀恵
気配りの年末年始すぎさりて我のからだがひゅうひゅうと鳴る      榎並幸子
温かい指導賜りし短歌道九十歳われの宝となりぬ 大津タカヱ
裏山の深山につづく猪(しし)道あり三和土(みたき)のごとくかたまりており 折口幸子
もう鳴らぬ生家の電話番号をただ眺めおりスマホ画面に         金尾桂子
さす光浴びてほころぶ梅の花天守にささぐる春とおからず         菅 篁子
宇宙をば見ていただけのわれなれどプライドを捨てて歌よまんとす   栗原美智子
明日より昼間が少し長くなるコロナ禍の世にささやかな幸         小畑宣之
こまやかに木々を整え園丁はよき小春日を広げゆくなり          廣本 貢一

2022/02/24

2022(令和4年)3月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

つれだち町ゆく子供よろこぶも手にあまる旗を両手に持ちて
午過ぎて街しづもりつたかだかと物うりの声の部屋にひゞくも
赤き芽をはつはつふきし鉢の楓ひかりの中におきてわが見る
芽をふきし鉢の楓は日のあたるところに出していつくしみたし
一本の若木の楓ひさかたのひかりの中に葉をひろげたり

        『萱原』(昭和五年刊)──大正十五年──春愁篇──お太子様の日に

20首抄(2022年2月号より抄出)
                                 
ささくれて棘(とげ)持つバラ科のハマナスは寒風の中我をはげます 勝地健一
嵐去りて萩にさわりはなかりけり花待ちて見る買い物帰り  川口浩子
紫紺ふかき巨砲を食(は)めば口中にしばし備前へ戻す秋風  近藤史郎
待つことの辛さを言えばなおさらに縁薄くなるこの人もまた  木村浩子
萩の花にシジミ蝶一つ訪(と)いきたり時を静かに刻みて遊ぶ  佐藤静子
思ひ出が独り歩きす 山畑に真白き蕎麦の花揺れてゐむ  澤田久美子
とりどりの衣装と舞いと和して閉ずパラリンピックは道を示して  柴村千織
寒々と帰りてエアコン急ぎつけご先祖さまのいます気のする  隅出志乃惠
寝椅子にはマジシャンのいてひとときを無意識界に寝落としの術 月原芳子
信条は論語の中の「恕(じょ)」とぞ言うその祖父を継ぐ中村哲氏  中村カヨ子
自分史は生きし証しぞ読む人は笑わんも身をいとしとおぼゆ  延近道江
外を歩く我につき来てあまゆるは猫好きなるが伝わりいるか  平本律枝
数滴の愛酒ふふめど眠られず今日の子悪を自(し)が手で裁く   松井嘉壽子
翼状針刺さるることに慣れし猫黙って我らに背を向けており  宮本京子
褐(かつ)ふかき分身地上に這 (は) はせつつひまはり夏のをはりをまとふ 森ひなこ
母もわれも^抒情短詩^書く異邦人^LE MADRIGAL^に座せしパリの夜 山本真珠
ままごとの髪に飾りし花八手 記憶の花の今朝まっ盛り  米田勝恵
河畔走るライトとろとろつながりて帰心乗すれどただに動かず   石井恵美子
公言をすることにより身をしばり継続をして力となせり  宇吹哲夫
欲も減りぬ贈りて喜ぶ友あればあれもこれもと手放せる我   岡田節子


2022/01/27

2022(令和4年)2月号

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題字 尾上柴舟 表紙 大瀨 宏
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山本康夫の歌

山々に雪がまばらに消え残り照り透る日の光冷たし
仏書のほかは興のらぬころあこがれし出離解脱の境遠き日々
世間虚仮唯物是真の幅かかる部屋に明け暮れてなお我執あり
脈うてる命のひびき聞くばかり澄みゆく夜半をむさぼりて読む
気がかりの原稿二篇成りし夜はいねがたきまで心はずめり
文学を語りて帰る雨の街心にあふるるものきわみなく

          『広島新象』(昭和三十四年刊)──昭和二十八年──壊滅の記憶

20首抄(2022年1月号より抄出)
                             
金魚の子生(あ)れて小(ち)さきは尾をゆらしウインクするかその円(つぶ)らな目 新井邦子       
よみがえる楽しみの一つ古里の彦山神社の秋の祭典 大津タカヱ
セミ穴に問いかけおれば風わたり砂は僅かに境内を這(は)う 金子貴佐子 
LEDに照る二の丸のヤマモミジ幻想のかなた能の舞あり 菅篁子
大理石の白きを踏めば脳髄にのぼりきたれり結晶世界 黒飛了子
屋根越えて行く白雲よ西方の友に便りをたのむと願う 小巻由佳子
山の端(は)を染めて夕日が沈むころ今日なさざりしことにこだはる 澤田久美子
清らなる歌声流れ中秋の月従えて姫路城立つ 柴村千織
「海の日」に散歩をせんとドア開けつ空一面が茜(あかね)に映える 高見俊和
いく千とせの宮(みや)居(い)の香りに馴染(なじ)まれし眞子さま嫁ぐ果敢な人へ 龍野日那子
朝露の落ち葉ふみふみ自転車の行く先いつもの友のやさしき 津田育惠
餅つく兎(う)をはるかに仰ぐ秋の夜半虫の音のみがしじまに響く 中村カヨ子 
遺影にと選びし写真の五十代は見知らぬ人とひ孫思わん 濱本たつえ
逆転のやむなく主夫は漫(すずろ)わし主婦の繁忙際限なきに 福島克巳
腹の出た男見るたび片足をそろりと浮かせ悪あがきする 福光譲二
片隅に押しとどめたる思い出を時にはそっと開いて楽しむ 古澤和子
日盛りの光は強くうらうらと赤瓦秋の日にゆるるごと 松永玲子
眠りいし晶子の扇子携えて短歌の門を再びたたく 宮本京子
お迎えの彼がいること内緒よと秘密つくりて孫は車中へ 山本全子
紙とペンと歌心とを友としてベッドのわれは世界の中心 吉田征子